Café Rosso私が3年前までいた課に派遣社員として来てくれていたA君というのがいます。最初は私の元で仕事をしてくれていたのにその時はプライベートな会話はほとんどしていなかったのですが、私が異動になってから色々話をしてみるとどうやら私とは趣味が合う点も多く、もっと早くそれに気付いていれば互いの仕事ももっと楽しかったのではなかろうかと悔やんだものです。「コーヒーが好きでちょっとこだわっている」というのもその共通点の一つなのですが、その彼がつい先日「おいしいコーヒーの教科書。」という特集が組まれコーヒーづくしの内容となっている雑誌BRUTUS612号を貸してくれました。

このBRUTUSの冒頭に登場するのは世界バリスタ選手権(World Barista Championship)という文字通り世界一のバリスタを決める大会でアジア人で初めて準優勝、すなわち世界第2位のバリスタと認められた日本人、門脇洋之氏が島根県安来市に構える店「カフェロッソ」です(Googleマイマップ)。イタリア語のbaristaというのは英語で言えばbartenderなのですが、イタリアのbar(バール)ではアルコール類だけではなくコーヒーなども出す立ち飲み形式のカフェのようなものだということで、イタリア語以外で「バリスタ」という場合にはエスプレッソをはじめとするコーヒーを淹れる職人のことを指します。このバリスタの世界選手権というものがあるということがまず驚きでしたが、それだけでなく日本人が準優勝に輝いたことがあり、その日本人バリスタのいる店が島根県にあるということも大きな驚きです。バリスタの選手権というものは一体どういう技術を競うものなのかというのもよくわからず非常に興味が湧いてしまい居ても立ってもいられなかったので、後輩Mとその家族を巻き添えに我が町から200km離れた安来市のカフェロッソに行ってみました。

朝8時半という早い時間に出発したおかげで、店に着いたのは12時前でした。BRUTUSには「週末ともなると客足が途絶えることがない」というように書かれていたと記憶しているのですが、実際に行ってみると駐車場に停まっていた車はたった1台ということでいきなり予想していたイメージを覆されてしまいました。しかし、小さい子供も連れていることですし、客としては空いている方がいいに決まっていますので、特に問題はありません。

Inside店内に入ってみると明るくシンプルで清潔感があり、暖かみのある木が活かされていてすがすがしくコーヒーを楽しむことのできる空間になっているのではないでしょうか。また、テラスにもテーブルが2セット用意されていたので、子供もいるので私たちは暖かい日差しの下でくつろぐことにしました。

道中おにぎりを食べていたこともあって、昼食時だというのに私たちが注文したのは皆ケーキセットです。ケーキはティラミス、ラズベリータルト、モンブラン、シフォンの4種類から選ぶことができ、それにカプチーノか今月のコーヒーのいずれかが付きます。私が頼んだのはモンブランとカプチーノ、Mはラズベリータルトとカプチーノ、M夫人はラズベリータルトと今月のコーヒーでした。バリスタの腕が最も発揮されるものを頼みたいと思っていたのですが、それがいったい何なのかはわからなかったものの、結局メニューの一番最初に書かれているのがカプチーノなので「これが得意なのに違いない」ということでカプチーノを選んだわけです。そうでなければ普通はエスプレッソの方が先に書かれそうなものではないでしょうか。

Cappuccinoさて、しばらく待って出てきた品を見て一同歓喜に包まれました。まずカプチーノ、ウェブサイトでもデザインカプチーノと説明されていますが、私たちのものは子供が喜ぶようにかネコウサギの可愛い顔が描かれてきました。これが世界トップレベルのバリスタの技術…というわけでもないのかもしれませんが、ここまで来るとこれまでに見たことがあるようなものは落書きでしかないように思えてきます。これはかなりグッと来るものがありますが、女性ならなおさらではないかと思われますので、初めてのデートでのツカミにはもってこいでしょう。ただ、初めてのデートでいきなり安来に連れて行ける人も限られているかとは思いますが…

Mont Blancそれはさておきケーキの方もかなりのものです。見た目は飾らないシンプルなケーキですが、それだけに味の方は期待が持てます。モンブランはしっとりとしたスポンジにふわっとしたクリームのボリュームたっぷりで食べ応えのあるケーキですが、コーヒーと一緒に食べるのにふさわしい適度な甘さがさすがと感じられます。一方ラズベリータルトの方は酸味が爽やかでこちらもなかなかの美味しさで甲乙付けがたいものがあります。こうなると残りの2品も食べてみたくなるものですが、それは許さないボリューム感があるので次の機会に見送ることにしました。

もともとバリスタの門脇氏は実父もコーヒー店を経営されており、コーヒーの技術は父親から学べばいいからということで最初にケーキ作りの修行をされたそうです。そのためケーキにも自信があるそうですが、バリスタならではの「コーヒーに合うケーキ」にもなっているでしょうから、その辺のケーキ専門店のものよりもコーヒーと一緒に食べると美味しいものになっていたりするのかもしれません。少なくとも私はかなり満足することができました。

肝心のカプチーノの方は世界トップレベルの味の違いというのが私はすぐにはわからなかったのですが、確かに後味に現れがちな雑味のようなものはさすがになく、コクがあるのにスッキリとした味わいだったように思います。またフォームドミルクの泡のきめが細かく均質なのはまさに技術の表れなのでしょう。泡が軽すぎてカップにたくさん残ってしまうのがもったいなく思えるほどでしたが、それがいいのか悪いのかは何とも言えないところです…

バリスタ選手権というのもそのクラスになると一般人にはわからないレベルで差が付けられることになるのでしょうが、「準優勝」と言われると門脇氏が優勝者に対して劣っていたのは何なのかというのも気になってしまいます。また同じ人が毎年出ているわけでもないでしょうから、ひょっとしたらある年の優勝者よりも別の年の準優勝者の方がレベルが高いということもあるのかも知れません。まあ、そんなタイトルなんていうのは飾りですから、私としては美味しいコーヒーを楽しむことができればそれでいいわけですが…

ともかくカフェロッソはかなり気に入りましたので、また近いうちに訪れたいと思いますが、美味しいケーキとデザインカプチーノがあればきっと妻子を退屈させることもないでしょうから、今度は家族で行くことにします。日帰りにはやや遠いので、松江辺りに宿を取った方が得策かもしれませんが。