ウィトルウィウス的人体図読みどころは随所に織り込まれた蘊蓄の深さ?

昨年の映画「ダ・ヴィンチ・コード」は世界的なベストセラーとなった小説を映画化したもので私もそれを観たのですが、「原作から詰め込みすぎてしまったために説明不足で消化不良」という印象だったのでぜひ原作の方も読んでみたいと思っていました。しかし、単行本は上下巻各1890円、文庫でも580円×3ということでちょっと新品を買うほどでも…と思って古本を探してもなかなか見つからないということでそのまますっかり忘れてしまっていました。ところが昨日家族で図書館に行ったときに、他の本を探すために英米小説の棚を見ていてこの「ダ・ヴィンチ・コード」の上下巻が1セットだけ揃っているのを見付け、そういえばと思い出したので借りてきました。

ダ・ヴィンチ・コード〈上〉
翻訳:ダン・ブラウン
角川書店 (2004/05/31)
ISBN/ASIN:4047914746
ダ・ヴィンチ・コード〈下〉
翻訳:ダン・ブラウン
角川書店 (2004/05/31)
ISBN/ASIN:4047914754

内容は非常に専門的な蘊蓄の披露が続き読み応えのあるものになっているのですが、絶妙な場面の切り換えのテンポに乗せられてしまうのか読み始めるとなかなかやめることができず、結局2日で一気に読み終えてしまいました。既に一度映画を観ているのでイメージが湧きやすい、というより映画のイメージを頭に描きながら読むことになるので、速いペースで読むことができるというのもあるのかもしれませんが、複数の人物の一人称視点を細かく切り替えて描くことでそうしたペースを作り上げているのではないかと思います。

先に映画を観てしまってから原作を読むことになった場合はいつでもそうですが、小説を読みながら映画のシーンを思い浮かべることになるのは良いことばかりではなく、その映画の解釈に束縛されてしまい自由な空想が制限されてしまうという問題があります。今回も主人公のロバート・ラングドンとソフィー・ヌヴーの二人はどうしてもTom HanksAudrey Tautouのイメージに固定されてしまい、ソフィーは「赤褐色の豊かな髪」と描かれているのにそれは全く目に入りもしませんでした。

とはいえ、映画がかなり原作に忠実に作られているということもよくわかりました。ただ、映像として表現しにくく、どうしても説明的になってしまうような内容が省略されているためにわかりにくいと感じられたのではないかと思います。もしも原作を読んだ上で映画を観ていればきっとより楽しめたのではないでしょうか。私もこれからまたレンタルで借りて観てみれば、無理にストーリーを追う必要もないということもあって以前とは違った印象を受けることになるかもしれません。

それにしても聖杯とそれに関わる宗教的・歴史的な情報をこれだけ集めるためにはかなりの取材が必要で、それはもはや研究の域にも達しているのではないかと思いますが、仮にその成果を論文などの形で発表しただけでは特に目新しいものではなく大したものにはならないのでしょう。それを素材として小説にしたことで広く読まれるものとなり大きな富を手にすることになったわけで、文才のある人はこうして研究資金を得るという手もあるのですね。まあその「文才のある人」という条件が難しいのだとは思いますが…