Star Trek“Live long and prosper.”

スター・トレックについて今さら何か説明する必要があるでしょうか。日本では「宇宙大作戦」と名付けられることになるオリジナルシリーズ(TOS)が1966年にテレビで放映され始めて以来、「新スタートレック」(The Next Generation:TNG)、「ディープ・スペース・ナイン」(Deep Space Nine:DS9)、「ヴォイジャー」(Voyager:VOY)、「エンタープライズ」(Enterprise:ENT)と40年近くにわたって5つのシリーズが沢山の人々を釘付けにしてきました。日本でも特にケーブルテレビなどで頻繁に放送されているのでそれでファンになったという人も多いのではないかと思いますが、私も学生の時に自宅でTNGを見続けていました。

スター・トレックの熱烈なファンのことをTrekkieといいますが、私はそれを自認するほどのファンではないものの、映画化されるとなればとても我慢してはいられません。昨日5月29日、日本でも映画版「スター・トレック」が公開されるということで居ても立ってもいられず、「今月3本目」だと妻に厳しく指摘されてもめげずに観に行ってきました。

今回の作品はスター・トレックの映画化作品としては11作目となるものですが、最近映画化された4作はTNGの世代の話でした。私にとっては馴染みの深いJean-Luc Picardが艦長を務めるU.S.S. Enterpriseが舞台となっていたのですが、今回はJames Tiberius Kirkが艦長であるTOSの世代です。私はTOSはほとんど知らないのでTrekkieとして失格なわけですが、今作はJamesが艦長になるまでの前日譚なので実は予備知識が無くても十分楽しめる作品になっています。また、これまでのTOSとの連続性があるわけではなく、あくまでパラレルワールドの扱いになっているようで、これまでに存在するエピソードとは整合性の取れないところもありますが、それは過去に囚われることなく魅力的な展開を自由に繰り広げられたということでプラス方向に考えられるかと思います。

監督のJ.J. Abramsはスター・トレックのファンではないと公言していたことでトレッキーの皆さんはヤキモキしていたのではないかと思いますが、できあがった作品を観てそんな心配もすっかり吹き飛び大満足なのではないでしょうか。実際に先に公開されていたアメリカでも高い評価を得て、興行成績もかなり良かったようです。これまでのクリーンなスター・トレックの世界とは違い、汗臭さの漂う、より人間味の溢れる現実的な未来が描かれているように思います。

もともと、スター・トレックというのは宇宙を舞台にしたSFの体裁をしてはいますが、実はそれは単なる設定だけであって、見せているのは主にクルーを中心とした人間ドラマです。その点でも今回の作品はしっかりと描かれていて、それでいて押しつけがましい道徳臭さもなく、優れたバランスで成り立っているのではないかと思います。SFは苦手だという人も、食わず嫌いを捨てて観てみれば引き込まれてしまうということもあるのではないでしょうか。

というとSFとしてはどうなのかというところも気になるところですが、もちろんそれも抜かりありません。CGで描き込まれた建造中のU.S.S. Enterpriseの絵はそれを見ただけで鳥肌が立ちそうになります。交戦シーンの迫力もかつて無いほどのものです。また私が最も感心したのはワープへの移行の表現です。映像を見れば一目瞭然ですが、これまでは「ビユ~~ン」という感じの伸びるような表現のものが多かったのに対し、この作品では「バンッ」と歯切れのいいものになっていて、これはこれでアリではないかと思いました。

しかし、抜かりないというのは映像表現の上での話であって、SFでありながら科学的に説明ができないというか、現実的でなく都合の良すぎるところが多々あるというのはこれまでのスター・トレックと変わりありません。まあ、私は前述の通りあくまで人間ドラマを見るものだと思っているので細かく突っ込まないことにしていますが、気になる人は気になるかもしれません。

ただ、この作品に限るものではなく最近映画を観る度に思うことなのですが、無駄にベッドシーンを入れるのはやめてもらえないものでしょうか。展開の上でさほど必然性があるものでもなく、かといってエロい大人が喜ぶようなセクシーなものでもなく、いったい何のためにというものが多くはありませんか?「これは面白いから子供に見せよう!」と思っても、そういうシーンがあるだけで躊躇してしまいます。教育上どうこうというよりも、説明を求められたときにいったい何と言ったらいいのかと思うと…

それは別として、この作品自体はスター・トレックのファンにもそうでない人にも間違いなく楽しめる、なかなか凄い映画でした。今のところ、今年私が観た中では一番誰にでもお勧めできる作品です。