Sully - Tom Hanks as Chesley Sullenberger and Aaron Eckhart as Jeff SkilesBrace for impact.

私は子供の時から乗っていたせいもあって飛行機は好きな乗り物の一つ、というか乗り物ならなんでも好きな感じですが、「あんなものがどうして空を飛ぶのか信じられない」と言って乗りたがらない人もいます。確かにあんなに大きな金属でできたものが浮くというのは理屈がわかっていてもちょっと不思議なものです。また、飛行機は飛んでいるときに何かあったらもう助からない、と言って怖がる人もいますが、飛行機に乗っていて事故に遭う確率は自動車事故よりも低いとも言われ、最も安全な乗り物だという人もいます。一旦事故に遭うと被害が甚大なために派手に放送されるので、その印象が強くなってしまって不安な人はより不安になるのでしょうか。

また飛行機に乗ると離陸前に必ず安全ビデオやクルーからのレクチャーがありますが、救命胴衣などを説明されてもどうせ役に立つことはないだろうと私も思っていました。太平洋を横断中に何かがあって海に着水したとしてもおそらく機体はバラバラでしょうし、そこで生き残っても救助が来るまで持つとはとても思えません。

ところが2009年、ニューヨークラガーディア空港を離陸した旅客機がバードストライクにより両翼のエンジン推力を同時に失い、ハドソン川に不時着水するという事故がありました。このとき世間が驚かされたのは、一人の犠牲者も出なかったということです。この「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる出来事はまさに奇跡としか言いようがありませんが、この事故と、その後に起こったことを映画化したのが「ハドソン川の奇跡」という作品です。

原題のSullyというのは事故機の機長だったChesley Sullenbergerのあだ名ですが、この事故の後、Sullyは世間には英雄としてもてはやされマスコミの取材が殺到する一方、国家運輸安全委員会 (NTSB) にはその判断が適切なものだったのかを疑問視され、追求を受けることになってしまいます。自分の職責を完全に果たし乗客乗員全員の命を守ったにもかかわらず、苦悩の日々を送る中、副操縦士のJeff Skylesや妻に支えられて公聴会の日を迎える、というものです。

日本人にはハドソン川といってもほとんど馴染みがないでしょうが、マンハッタン島の横を流れる川だといえば何となく分かるでしょうか。超高層ビルの立ち並ぶマンハッタンを眼下に見ながら、動力を失った巨体をどこに降ろすかという冷静な判断と決断は讃えることに何の疑問も感じられません。数百人の命を預かるというのはこういうことなのでしょう。

この映画は上映時間96分という、まれに見る短さのものです。しかし、無駄に話を引き伸ばすことなく余計な演出もせずにこの出来事を描いていて、とてもシンプルな映画だというのが鑑賞直後に私が感じたことです。それが逆にこの「奇跡」とSullyの英断を引き立てているのではないでしょうか。Sullyを演じるTom HanksやJeff役のAaron Eckhartらも本人たちそっくりの雰囲気を作っていて、作り話のように感じてしまうこともなかったように思います。

とにかくシンプル、潔い映画でした。