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羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季

羊飼い (イメージ)日本のサラリーマンとどちらが厳しいでしょうか。

もう20年も前のことですが、私たち夫婦の新婚旅行は私が子供の頃の一時期を過ごしたイギリスへ行きました。基本的にはロンドンに一週間ほど滞在する航空券とホテルのみのパックツアーにしたのですが、その間にロンドンのホテルは借りたままレンタカーでイングランド北西部まで足を伸ばして「嵐が丘」の舞台となったハワース湖水地方ウィンダミア、古いイングランドの景観が残るコッツウォルズを周るということをしました。残念ながらコッツウォルズは到着時刻が遅くなってしまって宿が取れず、車から眺めるだけでロンドンへと戻ることになってしまったのですが、イングランドの古い町並みの散歩やなだらかな丘のドライブは大変楽しかった思い出です。

この中でウィンダミアでは美しい景色や、Peter Rabbitを生んだBeatrix Potterが過ごした家Hill Topを楽しんだものですが、実はこの湖水地方では伝統的な羊の放牧が今でも続いており、そしてPotterもここで農場を経営していたのだそうです。そうしたことも、羊飼いがどのような生活をしているのかということも私はほとんど知りませんでしたが、James Rebanksという現役の羊飼いが書いた「羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季」という本を読んで知ることができました。もともと特に私の興味のある分野ではなかったのですが、先日早川書房Facebookで紹介していた「羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季」がなぜか気になったので読んでみたというわけです。

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季
ジェイムズ リーバンクス James Rebanks
早川書房
売り上げランキング: 10,413

本書では湖水地方で羊農場を営む著者がこの地方の羊飼い独特の農法、羊飼い家族の日々の暮らしを季節ごとに記したものです。厳しい自然の中で、羊や牧羊犬といった動物たちとの生活は毎年同じことの繰り返しのようでありながら様々な出来事があり、それに応じた対応が必要になるものです。そして一年を通じて毎日やらなければならない仕事があるのでゆっくりと休める時期があるわけでもなく、農場外と接するのは近隣の農場のほかは毎年行われる羊の品評会などのみ、という世間とは隔絶された世界です。

この本を通じて知ることができることは、湖水地方は美しいだけではなく、また羊も可愛いだけではないということ、そして美しい景観をなす石垣一つとっても羊飼いたちの日々のメンテナンスの賜物であるということです。私たち観光客はのんきに牧畜風景を見て穏やかな気持になったりしていますが、彼らにとっては観光客など邪魔者でしかないようですし、それは大いに理解できることです。観光客が増えたところで彼らには何のメリットもないのでしょうから。

著者のRebanks氏は祖父の代から続く家の農場を継ぐことが当然で特に学歴を必要としないにも関わらず、高校卒業後しばらくしてからオックスフォード大学に入り修了したという羊飼いとしては異色の経歴を持っています。そのおかげでこのような本を出版することにもなり、羊飼いの生活ぶりが世の中に広く知られるようにもなったのでしょう。そうでもなければそれはまだこの先もずっと謎のままだったのではないでしょうか。

本書が面白いのは思いのままに時系列を行ったり来たりしながら書かれているようなところで、それが著者と思考を共有するような効果があって良いのではないでしょうか。まったく知らない世界の出来事でありながら、読後には親しみを感じることができるようになりました。また、早川書房といえば中学生時代にはハヤカワ・ミステリ文庫、その後はハヤカワ文庫SFでお世話になってきた私には翻訳物に強い出版社というイメージがありますが、本書も翻訳の質が高くとても読みやすかったと思います。

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