Archives

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季

日本のサラリーマンとどちらが厳しいでしょうか。

もう20年も前のことですが、私たち夫婦の新婚旅行は私が子供の頃の一時期を過ごしたイギリスへ行きました。基本的にはロンドンに一週間ほど滞在する航空券とホテルのみのパックツアーにしたのですが、その間にロンドンのホテルは借りたままレンタカーでイングランド北西部まで足を伸ばして「嵐が丘」の舞台となったハワース、湖水地方のウィンダミア、古いイングランドの景観が残るコッツウォルズを周るということをしました。残念ながらコッツウォルズは到着時刻が遅くなってしまって宿が取れず、車から眺めるだけでロンドンへと戻ることになってしまったのですが、イングランドの古い町並みの散歩やなだらかな丘のドライブは大変楽しかった思い出です。

この中でウィンダミアでは美しい景色や、Peter Rabbitを生んだBeatrix Potterが過ごした家Hill Topを楽しんだものですが、実はこの湖水地方では伝統的な羊の放牧が今でも続いており、そしてPotterもここで農場を経営していたのだそうです。そうしたことも、羊飼いがどのような生活をしているのかということも私はほとんど知りませんでしたが、James Rebanksという現役の羊飼いが書いた「羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季」という本を読んで知ることができました。もともと特に私の興味のある分野ではなかったのですが、先日早川書房がFacebookで紹介していた「羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季」がなぜか気になったので読んでみたというわけです。

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季

posted with amazlet at 17.05.13

ジェイムズ リーバンクス James Rebanks 早川書房 売り上げランキング: 10,413

Amazon.co.jpで詳細を見る

本書では湖水地方で羊農場を営む著者がこの地方の羊飼い独特の農法、羊飼い家族の日々の暮らしを季節ごとに記したものです。厳しい自然の中で、羊や牧羊犬といった動物たちとの生活は毎年同じことの繰り返しのようでありながら様々な出来事があり、それに応じた対応が必要になるものです。そして一年を通じて毎日やらなければならない仕事があるのでゆっくりと休める時期があるわけでもなく、農場外と接するのは近隣の農場のほかは毎年行われる羊の品評会などのみ、という世間とは隔絶された世界です。

この本を通じて知ることができることは、湖水地方は美しいだけではなく、また羊も可愛いだけではないということ、そして美しい景観をなす石垣一つとっても羊飼いたちの日々のメンテナンスの賜物であるということです。私たち観光客はのんきに牧畜風景を見て穏やかな気持になったりしていますが、彼らにとっては観光客など邪魔者でしかないようですし、それは大いに理解できることです。観光客が増えたところで彼らには何のメリットもないのでしょうから。

著者のRebanks氏は祖父の代から続く家の農場を継ぐことが当然で特に学歴を必要としないにも関わらず、高校卒業後しばらくしてからオックスフォード大学に入り修了したという羊飼いとしては異色の経歴を持っています。そのおかげでこのような本を出版することにもなり、羊飼いの生活ぶりが世の中に広く知られるようにもなったのでしょう。そうでもなければそれはまだこの先もずっと謎のままだったのではないでしょうか。

本書が面白いのは思いのままに時系列を行ったり来たりしながら書かれているようなところで、それが著者と思考を共有するような効果があって良いのではないでしょうか。まったく知らない世界の出来事でありながら、読後には親しみを感じることができるようになりました。また、早川書房といえば中学生時代にはハヤカワ・ミステリ文庫、その後はハヤカワ文庫SFでお世話になってきた私には翻訳物に強い出版社というイメージがありますが、本書も翻訳の質が高くとても読みやすかったと思います。

あなたの人生の物語

想像力を働かせるのがSFの楽しみ。

先日、居間で家族が見ていたテレビで映画「メッセージ」が紹介されているのを何気なく聞いていて、Amy AdamsやJeremy Rennerが出演しているということでちょっと興味を持ったのですが、この作品はTed Chiang原作のあなたの人生の物語を原作としたものであるとのことでした。映画の公開は5月ということでまだ間があるので、それまでの間に原作を読んでみよう、ということでその場ですぐにKindle版を購入し、読んでみたところこれが凄いものでした。

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

posted with amazlet at 17.02.18

テッド・チャン 早川書房 売り上げランキング: 8,340

Amazon.co.jpで詳細を見る

というのは、「あなたの人生の物語」という作品自体は短編で、この本は短編集になっているのですが、ここに収められている作品がどれも独特で、素晴らしいものなのでした。ジャンルとしてはSFとされていて、「あなたの人生の物語」は地球に異星人がやって来て…という話なのでまさにSF的な設定になっているのですが、最初に収録されている「バビロンの塔」は旧約聖書に登場するバベルの塔での出来事を描いたものですし、「七十二文字」という作品は「名辞」という秘密の言葉を紙に書いて埋め込むと人形を動かすことができる、という世界の話で、ファンタジー的な世界観も併せ持つ不思議な雰囲気があります。なお、この72文字で人形を動かす、というのはユダヤ教のゴーレムから来ているようです。

私が一番凄いと思ったのは「地獄とは神の不在なり」という作品です。これもまた非常に宗教的なテーマのものなのですが、たびたび地上に姿を現す天使が降臨すると奇跡的治癒により救われる人がいる一方、その光を浴びることによって命を落としたり目を失ったりという目にも遭うという凄まじい世界が舞台となっています。この作品には作者の宗教観が反映されているようですが、読者も宗教を信じるということについて考えさせられるのではないでしょうか。

このようにSFとしては非常にユニークな世界観の作品が多いTed Chiangですが、なんとなく以前似たような作品を読んだことがあると思ったら「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」という短編集に収録されていた「商人と錬金術師の門」が彼の作品だったのでした。たしかにこの作品もとても特徴的で味のある作品でした。

ということでとても面白かったのでTed Chiangの作品をもっと読んでみたいと思ったのですが、実は彼は非常に寡作で、これまでに発表されている作品が20に満たないとのことで、これ以上はしばらく読むことができそうにありません。本業はテクニカルライターだとのことですが、これだけ質の高い作品をコンスタントに出し続けるというのは難しいのでしょう。質の低い作品がいくつあっても評価を落とすだけですから、これも仕方のないことです。いつかまた新しい作品に出会えることを楽しみに待ちますが、一方でこの短編集に収められている作品もまた読み返すことで新しい理解が得られそうなのでまだしばらく楽しんでみたいと思います。

本日のバーガー

お腹が空いてきます。

先日の帰省の際、「ローグ・ワン」を観たあと次男と池袋をウロウロしていたのですが、
マンガとライトノベルの専門店である芳林堂書店コミックプラザに行った時にレジのそばで見つけたのが「本日のバーガー」というマンガでした。日頃はマンガを買うということはほとんどない私ですが、ハンバーガーを題材にしているとあっては無視できず、その場にあった第1巻と第2巻を購入し、とても面白かったので帰宅後にすでに発売されていた第3巻と、今秋発売予定となっていた第4巻をAmazonで注文し、それがこの月曜日に届いたところです。

この作品を簡単にいえば、食品商社マンだった主人公が会社を辞めてハンバーガー専門店を開き、自分の抱負な知識と経験をもとに降りかかる様々な問題を特別な「本日のバーガー」で鮮やかに解決する、というような感じでしょうか。基本的にはビーフパティをバンズで挟んだのがハンバーガーと呼ばれるものですが、実際には素材や調理法の組み合わせで無限のバリエーションがあり、それを紹介してくれるのが私にはとても楽しいです。

InstagramやTwitter、Facebookなどで私の写真を見ている人には、私が最近カレーばかりを食べて回っているのはおわかりだと思います。この、日本人にとってのカレーがアメリカ人にとって何に相当するかといえばやはりハンバーガーです。アメリカ赴任中は自宅や職場近辺でハンバーガーの食べられる店を探しては食べて回っていたのですが、日本のカレーが店によって様々であるように、アメリカのハンバーガーも店ごとにそれぞれ特徴を持っていて、まったく飽きることがありませんでした。その間に食べて美味しかったバーガーのいくつかが作品中で紹介されているのも嬉しいです。

もともと週刊漫画TIMESで連載されている作品のようですが、こういった連載漫画の良いところは一話である程度話が完結していて、短編小説集を読むように小気味よくいろいろな話題に触れられるということですね。次の号まで焦らされるのがせっかちな私には耐えられなかったというのもあって、マンガ雑誌は子供の頃からほとんど買ってこなかったのですが、一話完結ものであれば悪くないように思います。まあそんなことはわかりきったことですが、単行本にしてもまだ完結していない作品の場合は次の号を待たされることになるのがやっぱり辛いです。

それはともかく、最近は日本にもいわゆるグルメバーガーの店がたくさんできてきましたが、それが一過性のブームではなく日本の多彩な食文化の一端として定着してくれることを願いたいと思います。この作品もその一助となるとまた嬉しいです。ちなみに写真は今日食べてきた西宮市エスケールのチリビーンズバーガーですが、ボリュームたっぷりでとても美味しかったです。