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アルジャーノンに花束を

これもSF。

先日、「ダウン症で神経細胞の増加を抑制している遺伝子を特定し、その遺伝子の働きを抑えて神経細胞を増やす化合物も発見した」というニュースがあり、研究チームはその化合物を「アルジャーノン」と命名したとのことですが、その命名の是非についても巷で話題になっていたようです。元になっているのはDaniel Keyesの著作である「アルジャーノンに花束を」というSF作品ですが、議論の中で「ちゃんとこの本を読んでいる人であればこのような命名はしないだろう」というような発言がありました。実は私もこの作品の名前だけは知っていたものの読んだことがなかったので、この発言をきっかけに、よい機会なので読んでみることにしました。

アルジャーノンに花束を〔新版〕

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主人公のチャーリイ・ゴードンは知的障害を持っているため32歳ながら6歳児並みの知能とされていますが、パン屋の手伝いをしながら、知的障害者専門の学習クラスに通っています。その熱心な学習意欲を買われ、脳手術により知能を向上させるという臨床試験の被験者となります。このとき、先に動物実験の対象となって能力の目覚ましい向上を見せていたのがハツカネズミのアルジャーノンでした。手術は成功してチャーリイの知能は著しく発達しますが、それとともに彼の生活も一変し、本人も周囲の人々も戸惑うことになるのでした。冒頭を要約するとこのような感じでしょうか。

物語はすべてチャーリイの一人称として、主に「経過報告」として日記のような形で綴られていますが、この経過報告こそがこの作品の肝といえるところです。ストーリーとしては映画化したら素晴らしいものになるのではないかと思いましたし、現に何度も映画やテレビドラマ、舞台で演じられているようで、2015年にも日本でドラマ化されていたようなので観たという人も少なくないかもしれません。しかし、この作品では映像として観るのと、文章として読むのとではまた違う楽しみがあるはずです。原作から和訳する際にも非常に苦労したことでしょうが、日本語ならではの表現に置き換えてとてもうまく描いているのではないかと思います。

この作品のSFたるところは「手術により知能を高める」ということと、その後の経過とに限られていて、物語自体それ以外は一般的なドラマと何ら変わりないように見えます。しかし、SFといえば宇宙船やタイムマシンを連想しがちですが、言ってみれば現代の科学技術ではありえないことはすべてサイエンス・フィクションなのですから、この作品も紛れもないSFと言えるわけです。また、その言わば実験的な表現手法はとてもSF的で、文芸作品にはあまり見られないものに感じられました。

ということで私も読み終わったあとでは、最初に取り上げた「ダウン症の治療に役立ちそうな物質」に「アルジャーノン」と命名するセンスには違和感があります。ただ、チャーリイの手術に用いられたのがその化合物のようなものであるのだとすると、発見した人たちが作品にあやかってそう名付けたくなるのも分からないではありません。でもそれでは暗示されている未来が明るいものではないような…

Transformers: The Last Knight

主役は人間。

映画「トランスフォーマー」シリーズは私の次男が小さい頃から好きなのですが、最初の作品「トランスフォーマー」が公開されたのは2007年ということなので今からちょうど10年前ということになります。その時次男はまだ5歳だったということになりますが、劇場に連れて行って一緒に観たところ「かっこいい~」と気に入ったようです。確かに1作目はトランスフォーマーたちの変形シーンが当時とても斬新で、私にも非常にかっこよく見えました。

それから10年経ち次男も中学3年生となりましたが今でも好きなようで、「トランスフォーマーを一緒に観に行くか」と声を掛けると「行きたい」とのことだったので、この週末公開されたシリーズ最新作「トランスフォーマー/最後の騎士王」を次男と二人で観てきました。これまでの私の印象では第一作が一番シンプルにトランスフォーマーたちをかっこよく描いていて、二作目三作目と進むごとにストーリーも演出も派手で複雑になってきて、映像の技術的にも進んでいるのですが、単純な痛快さが無くなってきてしまったように感じていました。果たして今作ではどうだったでしょうか。

人間の主人公は前作でMark Wahlbergに交代しましたが、彼の演技はとても良かったのでこれは私にとって嬉しいことでした。また、Josh Duhamelが復帰していますが、ちょっと見ない間に若干太って老け込んでしまったようで、以前のような精悍さは見られなくなってしまったのが残念です。ちなみにJoshの奥さんはBlack Eyed PeasのFergieでしたが、そのFergieのウェブサイトにある写真に写っているJoshの方が映画よりもシュッとしているような気がします。そして、John Turturroもまた相変わらず変な役柄で復帰しています。

さて、作品全体としてはどうだったかというと、やはりやや話を詰め込みすぎな印象は否めません。なにしろアーサー王伝説や第二次世界大戦など、古代から現在に至るまでの間のトランスフォーマーたちと人間との関わりに加え、トランスフォーマーたちの故郷であるサイバトロン星まで話に絡んできているので、149分という上映時間でも語り尽くせていないようなところがあります。それだけ盛り沢山な内容で退屈するようなことはないのですが、もう少し落ち着いて観させてほしいという感じでしょうか。決してつまらなかったわけではありません。

また、Optimus Primeが思ったよりもあっけないというのも感想の一つです。もう少し粘るのかと思っていましたが、これ以上はネタバレになるので黙っておきます。もう一つ言えば、変形シーンをもっと見たいというのもあって、その場でゆっくり変形してくれるようなシーンがないので第一作にあったような感動がなくなってしまっているのが残念です。ただ、特にBumblebeeが新しい変形パターンを幾つか見せてくれるのは楽しめました。

ところで、トランスフォーマーシリーズではこれまでに何度もデトロイトでのロケが行われてきて、前作では私もダウンタウンの空き地に組まれた撮影セットを目撃しているのですが、今作でも多くのシーンがデトロイトで撮影されているようです。そして、その見返りとして2100万ドルの補助金がミシガン州から与えられているということで、それに見合うだけの雇用や経済への影響があるということなのでしょうが、それだけ映画製作というものが巨大な産業であるということですね。

Arrival

これが本当のサイエンスフィクション。

先週末公開された映画「メッセージ」は、予告にも登場する宇宙船の形状が米菓のばかうけに似ているということで巷では話題になっているようですが、これに対して監督が「ばかうけに影響を受けた」とジョークで応えたり、ばかうけの販売元が「”メッセージ”が”ばかうけ”しますように!」と大ヒット祈願したりと変な盛り上がりをしているようです。しかし私はこれとは無関係に、以前読んだ「あなたの人生の物語」が原作になっているということで観たいと思っていたのですが、地元シネコンでは平日には早退しなければ観られない時間かレイトショーでしか上映されていなかったので、先週末は都合が合わなかったので今日の夕方まで観ることができませんでした。

原作を読んだときにはこの作品を原作にしてどう映像化するのかと思っていましたが、まったく違和感もわかりにくいこともなく、非常に自然に映像作品となっていて素晴らしいです。結末部分は原作から少々アレンジされているようでしたが、それまでの部分はとても忠実に描かれており、そしてその結末部分も原作から大きく外れることはなく、むしろ原作の難しかった部分がわかりやすく説明されているように感じました。

突然地球上の12か所に同時に現れた宇宙船らしき物体で、宇宙人らしきものとコミュニケーションを図るために米軍に呼ばれたのがAmy Adams演じる主人公の言語学者Louise Banksで、科学面での分析のために呼ばれたのが理論物理学者のIan Donnellyで、こちらはJeremy Rennerが演じています。その「宇宙人」の音声は単語になっているのかさえわからず、どこから手を付けるべきかもわからない状況ですが、一方で米軍はその「宇宙人」がどこから来たのか、その来訪の目的は何なのかを一刻も早く聞き出すことを求めてきます。

しかし、実際に異星人と接触するとしたらこうなるのではないでしょうか。よくあるSF映画ではいつの間にか宇宙人と対話が成立していたりしますが、文化も科学レベルも違う相手とのコミュニケーションはそうそう簡単に成り立つものではないでしょう。まあそれ以前にいきなり対決姿勢になっているものも多いですが、それも実際ありうることでしょう。どんな星の言葉でも通訳できてしまう機械翻訳機があるという世界の作品もありますが、そんなものは魔法と大差ありませんね。ちなみに私が大好きなスター・ウォーズは、SFはSFでもスペースファンタジーの略なので別枠です。

ということで、この作品は極めてシリアスなサイエンスフィクションになっています。そんなことはありえないとわかっていても、なんだか納得できてしまう、そういうバランスが上質なSF作品の証でしょう。