Hewlett Packardかゆいところに手が届くものはなかなか見つからないのですが…

私もエンジニアの端くれですから日常の業務でも計算というのは欠かせないものです。さすがにある程度簡単な四則演算くらいは暗算で済みますが、正確な答えが必要なときなどは電卓の助けを借りなければなりません。私は先日まではデザインに惹かれてイギリスのカタログショッピング店であるArgosで20年以上前に購入したTexas Instrumentsの、配色がちょっとオシャレな横長の関数電卓を愛用していたのですが、さすがに20年も使い続けているうちにガタが来てしまい、基盤の半田が浮いてくるなどしたのか筐体にねじるような力がちょっとかかるとリセットされてしまうなど不調になってしまいました。他では見ないような独特のデザインだったのでとても気に入っていたのですが、複雑な計算をしている途中で値が消えてしまったりしたときにはショックが大きく、そのまま使い続けることはできませんでした。

しかし日本で関数電卓といえば大抵CASIOSHARP、それに続いてCanonといったところになるかと思いますが、プログラマには欠かせない16進数の演算が可能なものとなると結構限られてしまうもので、なかなかコレというものがありません。私の場合には関数電卓が必要といっても実際には三角関数や指数演算すらほとんど使うことはなく、16進数の入力と結果表示さえできればあとは優先順位付きの四則演算くらいで問題はないのです。大抵のソフトウェア技術者の場合はその程度で事足りるのではないかと思うのですが、なかなかそういった製品はないようなのが実に不思議でなりません。10進数と16進数の変換くらい頭の中でしろということなのでしょうか…?

こんなようなことで過剰な機能を持っているせいで使い勝手が悪いような製品を買うよりはPDAの関数演算アプリケーションで我慢しよう、ということで最近はWindows Mobileで利用できるQ-Calcというので凌いでいました。ただ、機能的には問題ないもののタッチスクリーンでの数値入力というのはやはりストレスがたまるもので、ちょっとイライラしながら使っていたようなところで目にしたのがSlashdot.jpHP関数電卓、35周年記念モデル発売という記事でした。曰く、

世界初のポケット関数電卓HP-35誕生35年を記念して特別モデルHP 35sが発売された。 特別モデルはHP-35のレイアウトに10-Cシリーズのキーとドットマトリクス液晶を備え、HP-35には無かったプログラム機能を持ち、それでも価格は$59.99と存外に手頃である。

ということでこれは大いに期待できるのではないかとウォッチし続けていたのですが、これをついに購入してしまいました。「存外に手頃」とはいっても電卓に8000円というのは普通はちょっと躊躇してしまうものですよね。

HP 35s 関数電卓
メーカー:ヒューレット・パッカード
ヒューレット・パッカード (-)
ISBN/ASIN:B000TDRHG8

HPの電卓というのは日本ではなかなか馴染みのないものですが、日本での代理店はJulyという会社になっているようで、Amazonで注文してもこのJulyからの発送となります。私の場合は注文してから2時間ほどで発送の連絡が入り驚いたのですが、発送元が青森にあるということで関西には1日では届かず、翌々日の午前中の配達となりました。まあそれでも最近Amazonプライムを初めて以来特に遅れがちなAmazonからの配送と比べればかなりスピーディーだったと言えるでしょう。

ということでHP 35sですが、このHPの関数電卓の伝統であり一番の特徴・魅力というのはRPN(=Reverse Polish Notation 逆ポーランド記法)での入力モードが使えるということです。詳しい解説はWikipediaにもありますが、RPNというのは例えば1+2を計算する場合に普通の電卓では[1][+][2][=]というようにキー入力しますが、RPNでは[1][ENTER][2][+]と入力するというように演算対象の値を先に入力してから演算方法を入力するというものです。こう書くとかなりマニアックなものにしか見えないかもしれませんが、[1][と][2][を足す]というように考えれば日本語と同じ順序になる通り思考から直接キー入力が導かれ、また演算キーの入力の通りの順序で計算されるためにカッコの入力が必要ないというメリットもあるのです。また35sの場合はRPNでない普通の電卓と同じように入力できるモードも備えているので、RPNに不慣れな人に貸しても問題はありません。

また35sのキーは一般的な電卓のものと比べてかなり大きく固いものとなっているのも特徴的で、しっかりとしたクリック感があるので安心して入力することができます。このためキーの部分はだいぶ高くなっているのですが、ボディ両側の側面がキーと同じ高さになっているので裏返しに奥などしてもキーが痛んでしまうという問題もないのではないかと思われます。さらにハードケースも同梱されているので、日頃はこれに入れておくことで保護は万全ではないでしょうか。たかが電卓には大げさな、ちょっと贅沢なケースですが、その辺の電卓とはわけが違いますからね…値段が高いというだけでなく愛着が湧く、ガジェットとしても一級品と言えるものです。

まあ電卓ですからRPN以外には機能や性能にそう大きな差があるものでもなく、高度なプログラミングは可能なようですがこの辺りは使い込んでみないと評価はできません。厚さ15mmほどもある分厚いマニュアルには様々な例を挙げて演算方法が解説されていますが、私がこれを使いこなす日が来るのかどうか少々不安です。
HP 28s
ところで私はHPの電卓というとどうしてもいとぢゅんを思い出してしまうのですよね…彼のウェブページの「マシン遍歴」にも書かれている通り、彼は高校時代からHPの28sというかなりマニアックな電卓を使っていて、それ以前からこれが欲しいと思っていた私は羨ましくて仕方なかったのでした。電卓なのに横二つ折りで、左側のキーにはほとんどアルファベットが割り当てられていて、かなり複雑なプログラムも組むことができるという、ポケコン顔負けの、というよりポケコン需要に対するアメリカの回答だったのでしょう。いとぢゅんのことだからこれもしっかり使いこなしていたのでしょうね。

そういえばHPには以前16cというプログラマ向けの電卓があって、これがまさに私が欲していた16進数演算に最適化された製品だったのです。既にだいぶ以前に生産は終了していて、今ではかなり高値で取引されているようなのですが、新品当時も50000円ほどしたようで相当な高級品です。しかし必要十分な機能には文句の付けようがありませんので、今度はぜひこの16cを復刻してもらいたいものです。まあできればお値段は抑えてもらえた方がもちろん嬉しいですが、値段相応の質感が備わっていればたとえ数万円でもきっと…