マス本の内容はともかく…

本を売るにあたってはそのタイトルも非常に重要な意味を持つもので、えてして内容とは乖離した刺激的なタイトルが付けられてしまったりするものですが、この本のタイトル「百マス計算でバカになる」もなかなかのものです。一時期もてはやされた「百ます計算」に真っ向から喧嘩を売るような書名ですが、本文中にも書かれている通り「百ます計算」という単語は商標登録されているのでそれに配慮してあえて「百マス計算」とカタカナ書きにしたのだそうです。その程度で商標権侵害を回避できるのかどうかは疑問ですが…

ただし、この本の場合は攻撃的なのはタイトルだけではなく、「常識のウソを見抜く12講座」という副題の通り、世の中で常識のごとく捉えられている事柄について、固定観念に囚われることの危険性・問題点を説きつつ、著者なりの考えをストレートに述べるものとなっています。その考え方の全てに同調できるかどうかは別として、それなりに筋の通った議論であり、読む人自身が自分なりに考えるきっかけとして捉えることができれば良いのではないかと思います。

しかし、この本で私がどうしても気になって仕方がなかったのは「光文社ペーパーバックス」というこのシリーズの特徴とされているもので、巻頭に「光文社ペーパーバックスには、次のような大きな4つの特徴があります。」と掲げられています。曰く、

1. ジャケットと帯がありません。
2. 本文の紙は再生紙を使っています。
3. 本文はすべてヨコ組です。
4. 英語(あるいは他の外国語)混じりの「4重表記」

とあるのですが、1~3はいずれも特に問題とは思えないものの、どうしても受け入れられないのが4です。その内容をさらに引用すると

これまでの日本語は世界でも類を見ない「3重表記」(ひらがな、カタカナ、漢字)の言葉でした。この特性を生かして、本書は、英語(あるいは他の外国語)をそのまま取り入れた「4重表記」で書かれています。

となっているのですが、これがかなりおかしなことになっているのです。

本文中の例を挙げてみると、

科学万能主義の人々は、「日本は資源 natural resources がない国だから科学技術立国でいかなければいけない」という強迫観念 obsession に取り込まれている。

というような具合で、普通に日本語で書いたあとに同じ意味のことを英語で繰り返して挿入するような形になっているので、読みづらいことこの上ないことになっています。これまでの「3重表記」と、この「4重表記」とでは大きな違いがあって、延長上にあるようなものとは考えられません。例えばこの例文で「資源」であるとか「強迫観念」という日本語が書かれておらず、英単語で置き換えられているのであればまだ理解できますし、それなりの意味もあるかとは思うのですが、どういう基準で選ばれているのかもわからない言葉がまばらに英語で挿入されているので、スムーズに読むことができませんでした。

いったいどこの誰の発案でこんなことになってしまったのかわかりませんが、せっかくいいことを書いている本なのだとしてもこれでは台無しではないのでしょうか。私はおそらくこのシリーズの本を読むことはもうないでしょう。ペーパーバックであったり再生紙を使っていたりと無駄を排除しているようなところはいいと思うのですが、この「4重表記」については本当に意味がわかりません。「4重表記」でググってみると他にも沢山の人が同じように思っているようなのですけどね…