Sucker Punchいったいどんな踊りなのかも見てみたい。

地元にはろくな映画館がないのでいつも25kmほど離れたシネコンまで足を運んで映画を観ている私ですが、昨日はとうとう90kmも離れたところまで高速を飛ばして観に行ってしまいました。というのも、前から観たかった作品が全国公開は吹替版のみになってしまい、一部の映画館でのみ字幕版を上映ということになってしまったからです。最近は洋画も吹き替えで観る人が増えてきたようですから、ある程度は仕方が無いとは思わないでもないのですが、少しは作品を選んでもらいたいのです。

その作品というのは邦題で言うと「エンジェル ウォーズ」なのですが、この邦題も噴飯物です。もともと英語で「騙し討ち」を意味する”Sucker Punch“という立派なタイトルが付けられているにも関わらず、日本語での語感が全く合わない「エンジェル」などという単語を使い、また戦争でもないのに「ウォーズ」だなんていったいどういうつもりなのか、センスを疑ってしまいます。

またこの作品のメインキャストは5人の女の子たちなのですが、そのうち4人の吹替をスフィアとかいう歌手だか声優だかのグループにさせていて、そのプロモーションに利用されてしまっているようなのが非常に残念です。日本の配給元には自分たちの商品でもある作品に対する愛情というものがないのでしょうか。一応声優らしいのでその辺のアイドルにさせたように下手くそということはないのでしょうが、今回が吹替初経験という人もいるようです。

というわけで私は仕方なく109シネマズ箕面まで行ったのですが、梅田でも字幕版を上映しているのに箕面に行ったのは、IMAXで観ることができるからです。箕面のIMAXシアターには以前「トランスフォーマー・リベンジ」を観に行っていますが、その時以来2回目ということになります。前回は映像のキメ細かさに感動したものですが、今回は音響の素晴らしさを堪能することができ、結果的には大満足です。この作品は音楽が重要な役割を担っているのですが、その音楽というのはサントラにも収められているようにEurythmicsの”Sweet Dreams (Are Made of This)“のカバーやBjörkの”Army of Me“、Queenの”I Want It All“など馴染みのある曲もあって、それを迫力ある音で聴くことができたのは非常に良かったと思います。

Soundtrack
アーティスト:Sucker Punch
Watertower Music (2011/03/22)
ISBN/ASIN:B004KD5TQI

この作品がどういうストーリーなのかというと、時代は1950年代、母の死後に財産を独り占めしようとした継父に妹を殺された上、その罪をなすりつけられて精神病院に入れられ、さらにロボトミーを施術されてしまう事になったヒロインが病院で出会った4人の友人と共に自由を求めて戦う…というようなものです。こう文章で書いてしまうと単なるアクション映画のようで、きっと配給元もそうだったのだろうと思うのですが、実際はもっと複雑なものです。主な舞台となるのは病院ではなく、病院の中でヒロインの意識が創りだした売春宿の世界、そして戦いの舞台はさらにその中の想像の世界で、東洋の寺院、ヨーロッパの戦場、オークドラゴンの住むファンタジーの城、そして未来世界の列車と様々です。アクションの世界ではヒロインらは超人的な戦いぶりを見せ、一部マトリックスを彷彿とさせるような動きもあり、リアリティーは一切ありません。ここでは痛快さを楽しむなのべきでしょう。

それ以外のシーンは何とも奇妙です。終盤の場面になって大体納得出来るようになるのではないかと思いますが、精神の複雑な構造を見せられているようで、なかなか難しい映画です。幸せな結末には終わらないということもあり、非常に観る人を選ぶというか、どういう人をターゲットにしようとしたのかが分かりにくい作品です。興行的にとても成功とは言い難いようですが、それも配給だけの責任では無いかもしれません。

しかしビジュアルは非常に素晴らしいと思います。現実の世界、売春宿の世界、アクションの舞台となる世界は
それぞれ異なるトーンの映像で描き分けられていますが、緻密に作り込まれた映像世界はZack Snyderならではの完成されたものです。それをこれでもかとばかりに立て続けに舞台を様々に変えて見せる、何とも贅沢な映像作品と言えるのではないでしょうか。ちなみにエンドクレジットの最後まで手が抜かれていないせいか、最後まで席を立たずに観ている人が多かったように思います。

ということで、Babydollと呼ばれるヒロインがセクシーなセーラー服のコスチュームだったりして軽く見られがちなのではないかと思いますが、実はさにあらず、悲しくてちょっと難解な物語でした。やっぱりこの作品にあの邦題はありえません…