Ford Rouge Factory Tourやっぱり海外で物を作るのは大変。

デトロイトというとすっかり治安の悪さで有名になってしまっていますが、その前に自動車の街です。アメリカの三大自動車メーカーであるゼネラル・モーターズフォードクライスラーのデトロイト3が揃って本拠地を構えているというのはどういうわけなのか理解していませんが、その下請け企業や部品メーカーもこの街に集中し、そしてそこに日系を含む他国の自動車メーカーも拠点を構えるようになっており、日本人の赴任者も多くが自動車産業に関わっています。

デトロイト3の一角、フォードが本社を構えるのはデトロイト市に隣接するディアボーンですが、ここに2.4km✕1.6kmという巨大な敷地を持つリバー・ルージュ工場を持っています。ここは古くはT型フォード、その後はマスタングを製造してきた歴史のある工場ですが、現在はアメリカで最も売れている自動車であるピックアップトラックのF150を生産するフォードの最新鋭工場となっています。

この敷地近くにはヘンリー・フォード博物館という博物館があります。もちろん自動車に関する展示も大きな割合を占めているのですが、それだけでなくアメリカの産業と文化の歴史を知ることができ、なかなか日本では観ることができない興味深い展示物も揃っています。デトロイトで数少ない観光地となっているので、たびたび出張者を案内しています。そしてここではアトラクションの1つとして、ルージュ工場見学ツアーというものもあるのですが、先日次男が何気なく「工場見学に行きたい」というようなことを言っていたのを思い出し、次男と二人で時間をつぶす機会があったので行ってみることにしました。

ツアーは特に予約は要らず、チケットを購入したら2,30分おきに出発するバスに乗って工場へ移動するだけで、あとは自分のペースで見学することができます。また日曜日と、クリスマスとサンクスギビングを含む特定の数日はツアー自体が開催されておらず、さらに工場の休業日には生産ラインが動いているところを見ることはできませんが、2月から9月までは土曜日も工場は稼働しているので見学可能です。

さて、博物館からは10分ほど専用のバスに乗ってルージュ工場の見学者施設へと移動します。最初に最上階の展望台へと通されたのですが、ここからは見渡すかぎり工場のように感じるほど、巨大な設備に圧倒されます。通常の自動車工場ではせいぜい鋼板を購入してきてプレス成形するところから始まるのだと思いますが、ここでは鉄鉱石を運搬してきて精錬するところから一貫して行われてきたということで、自前の製鉄所まであるというのだから驚きです。

その次にいよいよF150の生産ラインを見学しました。車体の組み立て作業が行われているラインの2階部分に見学者用の通路が設けられていて、上から安全に作業の様子などを眺めることができるようになっています。あまり近くで見ることはできないので細かい部分はよく分かりませんし、組立工程の一部を見ることが出来るだけなので若干物足りないような感じはありましたが、それは私自身が製造業に関わる技術者であるから感じることなのかもしれません。それでも自分の会社以外の生産ラインを見るということはあまりないことですし、子供の頃から工場見学というのは大好きでしたのでそれなりに楽しむことはできました。

本来の順番とは逆なのですが、このあと最後に1階にある2つのシアターで、1つはこのルージュ工場の歴史を、そしてもう1つはF150の組立工程の説明を見ました。1つ目の方は博物館などによくあるマルチスクリーンのビデオだったのですが、2つ目の方はつい昨年出来たばかりらしく最新技術を駆使した非常に高度なプレゼンテーションでした。次男もこれには圧倒されて終わった後でもかなり興奮していましたが、全周スクリーンに加えて前方にせり上がってくる真っ白なF150のモックアップにプロジェクションマッピングを行い、そして左右あるロボットアームが作業の様子を見せるという形で、大人の私にもなかなか見応えのあるものでした。これがこのツアーの目玉と言っても良いのかもしれませんが、ツアーに参加しないと見られないというのがもったいないようにも思えます。

しかし印象的だったのは工場の作業者のだらけ具合です。私語が多いのは予想通りでしたし、私服で作業しているというのも考え方の違いなのでしょうが、イヤホンで音楽を聞きながら作業していたり、全体的にやる気の無さが感じられました。やるべきことをやって守るべきことを守っていれば問題ないとはいえ、私ならこのラインを見た後でF150を買いたいとは思えませんが、アメリカ人には気にならないものなのでしょうか。まさしく文化の違いですね。