Detroitなまじ知っているだけにリアル…

私が2年半ほど前まで駐在していたデトロイトといえばアメリカでも最も治安の悪い都市として悪名高いところですが、私たちが住んでいる間には特に危ない目に遭ったことはありません。しかし、治安の悪い地域というのは確かにあって、そういったところは一歩足を踏み入れただけでわかる何とも言えない空気があり、車で通り抜けるにも緊張したものです。運転している間もキョロキョロせずにまっすぐ前を向いて、笑われたと思って攻撃してくるので決して笑わず、写真を撮るなんてもっての外、と先にいた人には言われたものですが、それもただの脅しではないでしょう。実際、日本からの出張者が建物の写真を撮っていて絡まれ、カメラを壊されて現金を取られたというような情報もありました。

かつては全米4位の大都市であったデトロイトがそんな街になってしまったのは1943年1967年の2度に渡る暴動によって白人の比較的裕福な層が郊外の衛星都市に流出してしまったためです。現地の日本人が現在住んでいるのもそうした衛星都市で、デトロイト市に住んでいるという人は皆無でしょう。

しかし私もそこまでは知っていても、アメリカの歴史というのは日本人にはほとんど知られていないもので、デトロイト暴動についても「そういうことがあった」という程度の知識でした。今回、その1967年の暴動を題材にした映画、その名も「デトロイト」が公開されたので、これは観ておかなければならないだろうということで、公開初日の金曜日に劇場へ行ってきました。初日の夜なのに観客は10人程度しかいないという、非常に寂しい状況だったので、やはり日本人受けはしないので仕方ないかと思いましたが、批評家の評価は高いものの、昨年12月の時点で3400万ドルの製作費に対して2150万ドルの興行収入しか得られなかったということで、難しいのは日本だけではなかったようです。

この映画では暴動の最中に実際にあった、Algiers Motelでの事件について、その当事者らの証言を元に描いたものだということです。したがって、市内の暴動の様子が描かれているのは冒頭の導入部ということになりますが、この場面は実際にデトロイトで撮影された部分もあるようで、なかなか臨場感があります。日本では一般大衆が参加するような暴動はなかなか起こらないのであまり想像できませんが、アメリカでは特に市民も銃を所持しているだけにほとんどゲリラ戦ですね。

この作品の主人公は一応Melvin Dismukesという近くのスーパーの警備員とされているようですが、これを演じているのがスター・ウォーズのエピソード7/8でFinを演じているJohn Boyegaです。Finのときはなんとも頼りない役柄ですが、本作では静かに正義感を湛える落ち着いた役を凛々しく演じています。また、若い警官Philip Krauss役のWill Poulter、事件に巻き込まれたボーカルグループThe DramaticsのリードシンガーLarry Reedを演じるAlgee Smithらの演技が特に高く評価されているようですが、たしかに迫真の演技と言えるでしょう。

実はここ数年のデトロイトは家賃が安いということもありスタートアップ企業に注目されているという話もあり、昨年からQLINEという路面電車も走り始めたり、NHLDetroit Red Wingsが新しいアリーナを市内に建設して移り、そこにNBADetroit Pistonsも本拠地を移して郊外から戻ってきたり、と明るいニュースも多々あって、少しずつ着実に活気を取り戻してきているのは間違いないようです。私はやはり愛着もありますので、市の経済もなんとか持ち直してもらいたいと思っていますが、それはやはりデトロイトの自動車産業が鍵となっているのでしょうか。

ところで、Julie Ann役のHannah Murrayベッキーに見えて仕方がなかったのですが、それはただ私の目が悪いせいでしょうか…