Archives

足立美術館と松江堀川めぐり

一人ではなかなかしない経験も。

異常に暑かった夏も連続して襲いかかる台風と一緒に去っていったようですが、皆さんはこの夏をどう過ごされたでしょうか。私の勤務先は毎年お盆には一週間ほど休みになるので、例年は家族揃って東京の実家を訪れていましたが、今年から長男が東京で一人暮らしを始めたことと、両親が引っ越しをして家族で泊めてもらえるようなスペースが無くなったことなどがあり、帰省はしないことになりました。しかし、その代りに両親が中国地方の旅行を計画していて、しかし7月の西日本豪雨の影響で広島周辺の鉄道が運休となっているためどうやって移動しようかと言っていたので、それなら私の車で一緒に行けばいい、ということで途中から合流して3人で旅行することになりました。ちなみに両親と一緒に旅行するなんていうのは就職してからはないことですし、それどころか3人でとなると弟が生まれてからはないかもしれません。

さて、両親は倉吉の知人宅に泊めていただいているということだったので倉吉駅まで迎えに行き、そこからまず安来の足立美術館へと向かいました。安来と言えば私にとってはまずCafé Rossoですが、実は一昨年には安来節演芸館というところへ職場のカレー部の仲間らと行って安来節を見てきたりもしたのですが、足立美術館はそのすぐ隣りにあったのにまったく意識していなかったのが不思議です。

この足立美術館は日本画を中心とした美術館ですが、その庭園がThe Journal of Japanese Gardeningというアメリカの専門誌の日本庭園ランキングで15年連続日本一に選ばれていることで有名です。そのため、私も期待していたのですが、個人的な感想を率直に言えばきれいすぎて面白みに欠けるというか、整いすぎていていかにも作り物のような気がしてしまいました。私は京都の小さな寺の庭の方が好みです。ただ、私は苔が好きなので、本当に単なる好みの問題なのだと思います。また、収蔵されている美術品についても近代の日本画が中心なので、残念ながらどうも私の好みではありませんでしたが、横山大観のコレクションについては明らかに別格で、これらには唸らざるを得ないという感じでした。

このあとは安来節のどじょうすくいに因んでどじょうの柳川鍋を昼食に食べたあと松江に移動し、堀川めぐりの船に乗りました。これは松江城の堀跡をぐるっと一周して、堀から松江の町を見て回るものです。堀からは城はほとんど見えないのですが、築城当時から残っている石垣や、小泉八雲の旧居を始めとする武家屋敷跡などを、解説を聞きながら見ることができます。また、当日はやはりとても暑い日だったのですが、船の上というのは陸上よりもだいぶ涼しいので乗っている間は快適でした。

この船には低い屋根が付いているのが特徴的というか、どうして景色を見るための船なのに屋根で視界を遮るようなことをするのかと思っていたのですが、コース上には橋桁がとても低い橋がいくつかあり、それらをくぐるときには屋根が下がるようになっているのです。そのときには乗客は皆身を屈めて這いつくばるようにならなければならないのですが、もしもこのような屋根がなかったとしたら大怪我が絶えないようなものになってしまうでしょう。乗ってみて納得しました。

ということで、この後松江駅近くに予約していたホテルにチェックインしてちょっと休憩し、その後夕食を食べに行ってこの日は終わりました。松江にもこれまで何度か行ったことがありますが、いつもドライブの途中でカレーを食べるだけだったので、一人ではできない経験でした。一人旅自体はまったく苦でない自分ですが、やはりたまには誰かと一緒に旅行するというのもいいかもしれません。

石見銀山

世界遺産としてはまだまだこれから…

激しい雨風の中水木しげるロードを堪能した翌日は、当初は日本海で海水浴を楽しむつもりだったのですが、朝方は空がやや曇っているようだったので「代わりに明日プールへ連れて行くから」と子供を説得し、つい先頃UNESCOの世界遺産への登録が決定し話題になった島根県西部の石見銀山に行くことに予定を変更しました。泊まっていたのは大山のペンションだったので120kmほど離れていて、ついでに寄るようなところではないような気もしたのですが、最近あちらこちらで目にしていたので一度は行ってみたいと思っていたのでした。

山陰地方は高速道路もろくに整備されておらずアクセスが非常に悪く、これでは過疎化も進むばかりなのも仕方がないと思えてしまうのですが、米子から西へ伸びる山陰自動車道が出雲の手前で終わってしまったあとは一般国道を進んで行くしかありません。その後大田から標識の案内に従って山の方へ入っていくと程なく石見銀山にたどり着きます。世界遺産のための整備の一環か無料の駐車場が山中に整備されつつあり、そこに車を停めてバスに乗って銀山遺跡や町並みの方へ行くことになります。

このバスは1回200円、一日券が500円ということになっているのですが、坑道跡へはバスを乗り継ぐ必要があるので普通は一日券を買うことになるでしょう。私たちも一日券を買ったのですが、ただバスに乗っていくだけではあっけなくて面白くないだろうと、バスを乗り継がずに乗り換え地点(大森)から龍源寺間歩という坑道跡までの2.4kmほどの距離は歩いて上ることにしました。結局この日は日差しが強くなり、上り坂を汗だくになって歩いたのですが、5歳の次男でも歩ききったので大したことはないでしょう。道中には特にこれといったものがあるわけでもありませんでしたが、緑の中を歩くのは気持ちがいいものです。ただ細い道路をバスが行き来するのでたびたび道路脇によける必要があるのがちょっと問題です。

龍源寺間歩では唯一公開されている坑道に入ることができます。入り口に近付くとひやりと冷たい空気が流れ出てきて、ここまで歩いてきたからこそ味わえる気持ちの良さで疲れも吹き飛びます。中に入っていくと私でさえも身をかがめないと頭をぶつけるほどの狭い坑内に、当時の作業車の劣悪な環境が垣間見えるのですが、展示らしいものはあまり充実しておらず、最低限のパネルなどがある程度でした。気持ちがいいのでしばらく涼んでいたいとも思ったのですが、何しろ通路が狭く途中で立ち止まっていると後続の邪魔になってしまうのであまりのんびりできません。仕方なくずんずん進んでいくと、若干気温が上がり出口が近いことに気付くのですが、あまりに早すぎます。実は公開されているのはわずか273mしかないのでした。そこからは新しく付けられた坑道で直線的に出ていくことになり、あっという間に終わってしまい子供もかなりガッカリです。私たちがわざわざ歩いて登ってきたからこそそう感じるのか、あるいはバスやタクシーで登ってきてしまった人はもっとあっけなくて「何これ?」という感じなのか、比べようもないのでわかりませんが…

まあそういっていても仕方がないので、お昼も過ぎたしということで下りのバスに乗る前に龍源寺間歩からすぐのところにあるTorayaというカレー屋さんに入りました。こんな場所にあるというのも凄い話なのですが、このお店のカレーが実はなかなか美味しいのでした。チキン、フルーツベジタブル、タイ風という3種類のカレーがあるのでそれぞれ1皿ずつ頼んで食べてみたのですが、チキンとフルーツベジタブルはたくさんの野菜が溶け込んで、さらっとしていて甘みのあるカレーです。タイ風は辛いので子供には無理でしたが、本格的なグリーンカレーです。まさかこんな観光地のまっただ中で、リーズナブルな値段でこんなに美味しいカレーが味わえるとは思っていなかっただけに、喜びもひとしおといったところでしょうか。

カレーを食べて満足したあとは満員のバスに乗って再び大森に戻り、妻の目当てだった群現堂というお店に向かいます。こんなお店がなぜこんなところにあるのかというのも私にはよくわからないのですが、雑誌などでは何度も取り上げられていて有名なようですね。わざわざこのために岩見までやって来るという人がどれだけいるのかわかりませんが、少なくとも妻はその一人のようなのでそれなりにいるのかも知れません。結局妻も大したものは買わなかったようですが…

その後はまたぶらぶらと歩いてバス乗り場まで向かうのですが、町並みというのもそれほどのものでもありませんし、遺跡として残っているものも自然すぎるのかどうということもなく、一体どういうところが世界遺産なのかと疑問を感じずにはいられませんでした。坑道跡も生野銀山の方がはるかに立派ですし、私の中ではがっかり名所入りしてしまいました。一応、「山を崩したり森林を伐採したりせず、狭い坑道を掘り進んで採掘するという、環境に配慮した生産方式」というのが売りのようなので、そういわれてみれば確かに…という感じではあるのですが、ちょっと弱いですね。

結局、このあと広島の方へ抜けて山陽自動車道で買えることにしたのですが、せっかく広島を通るならということで見に行った原爆ドームと市電の方が、一度も車も停めずに窓から観ただけなのに子供の受けが良かったというのも何だかなあという感じです…

Café Rosso

私が3年前までいた課に派遣社員として来てくれていたA君というのがいます。最初は私の元で仕事をしてくれていたのにその時はプライベートな会話はほとんどしていなかったのですが、私が異動になってから色々話をしてみるとどうやら私とは趣味が合う点も多く、もっと早くそれに気付いていれば互いの仕事ももっと楽しかったのではなかろうかと悔やんだものです。「コーヒーが好きでちょっとこだわっている」というのもその共通点の一つなのですが、その彼がつい先日「おいしいコーヒーの教科書。」という特集が組まれコーヒーづくしの内容となっている雑誌BRUTUSの612号を貸してくれました。

このBRUTUSの冒頭に登場するのは世界バリスタ選手権(World Barista Championship)という文字通り世界一のバリスタを決める大会でアジア人で初めて準優勝、すなわち世界第2位のバリスタと認められた日本人、門脇洋之氏が島根県安来市に構える店「カフェロッソ」です(Googleマイマップ)。イタリア語のbaristaというのは英語で言えばbartenderなのですが、イタリアのbar(バール)ではアルコール類だけではなくコーヒーなども出す立ち飲み形式のカフェのようなものだということで、イタリア語以外で「バリスタ」という場合にはエスプレッソをはじめとするコーヒーを淹れる職人のことを指します。このバリスタの世界選手権というものがあるということがまず驚きでしたが、それだけでなく日本人が準優勝に輝いたことがあり、その日本人バリスタのいる店が島根県にあるということも大きな驚きです。バリスタの選手権というものは一体どういう技術を競うものなのかというのもよくわからず非常に興味が湧いてしまい居ても立ってもいられなかったので、後輩Mとその家族を巻き添えに我が町から200km離れた安来市のカフェロッソに行ってみました。

朝8時半という早い時間に出発したおかげで、店に着いたのは12時前でした。BRUTUSには「週末ともなると客足が途絶えることがない」というように書かれていたと記憶しているのですが、実際に行ってみると駐車場に停まっていた車はたった1台ということでいきなり予想していたイメージを覆されてしまいました。しかし、小さい子供も連れていることですし、客としては空いている方がいいに決まっていますので、特に問題はありません。

店内に入ってみると明るくシンプルで清潔感があり、暖かみのある木が活かされていてすがすがしくコーヒーを楽しむことのできる空間になっているのではないでしょうか。また、テラスにもテーブルが2セット用意されていたので、子供もいるので私たちは暖かい日差しの下でくつろぐことにしました。

道中おにぎりを食べていたこともあって、昼食時だというのに私たちが注文したのは皆ケーキセットです。ケーキはティラミス、ラズベリータルト、モンブラン、シフォンの4種類から選ぶことができ、それにカプチーノか今月のコーヒーのいずれかが付きます。私が頼んだのはモンブランとカプチーノ、Mはラズベリータルトとカプチーノ、M夫人はラズベリータルトと今月のコーヒーでした。バリスタの腕が最も発揮されるものを頼みたいと思っていたのですが、それがいったい何なのかはわからなかったものの、結局メニューの一番最初に書かれているのがカプチーノなので「これが得意なのに違いない」ということでカプチーノを選んだわけです。そうでなければ普通はエスプレッソの方が先に書かれそうなものではないでしょうか。

さて、しばらく待って出てきた品を見て一同歓喜に包まれました。まずカプチーノ、ウェブサイトでもデザインカプチーノと説明されていますが、私たちのものは子供が喜ぶようにかネコとウサギの可愛い顔が描かれてきました。これが世界トップレベルのバリスタの技術…というわけでもないのかもしれませんが、ここまで来るとこれまでに見たことがあるようなものは落書きでしかないように思えてきます。これはかなりグッと来るものがありますが、女性ならなおさらではないかと思われますので、初めてのデートでのツカミにはもってこいでしょう。ただ、初めてのデートでいきなり安来に連れて行ける人も限られているかとは思いますが…

それはさておきケーキの方もかなりのものです。見た目は飾らないシンプルなケーキですが、それだけに味の方は期待が持てます。モンブランはしっとりとしたスポンジにふわっとしたクリームのボリュームたっぷりで食べ応えのあるケーキですが、コーヒーと一緒に食べるのにふさわしい適度な甘さがさすがと感じられます。一方ラズベリータルトの方は酸味が爽やかでこちらもなかなかの美味しさで甲乙付けがたいものがあります。こうなると残りの2品も食べてみたくなるものですが、それは許さないボリューム感があるので次の機会に見送ることにしました。

もともとバリスタの門脇氏は実父もコーヒー店を経営されており、コーヒーの技術は父親から学べばいいからということで最初にケーキ作りの修行をされたそうです。そのためケーキにも自信があるそうですが、バリスタならではの「コーヒーに合うケーキ」にもなっているでしょうから、その辺のケーキ専門店のものよりもコーヒーと一緒に食べると美味しいものになっていたりするのかもしれません。少なくとも私はかなり満足することができました。

肝心のカプチーノの方は世界トップレベルの味の違いというのが私はすぐにはわからなかったのですが、確かに後味に現れがちな雑味のようなものはさすがになく、コクがあるのにスッキリとした味わいだったように思います。またフォームドミルクの泡のきめが細かく均質なのはまさに技術の表れなのでしょう。泡が軽すぎてカップにたくさん残ってしまうのがもったいなく思えるほどでしたが、それがいいのか悪いのかは何とも言えないところです…

バリスタ選手権というのもそのクラスになると一般人にはわからないレベルで差が付けられることになるのでしょうが、「準優勝」と言われると門脇氏が優勝者に対して劣っていたのは何なのかというのも気になってしまいます。また同じ人が毎年出ているわけでもないでしょうから、ひょっとしたらある年の優勝者よりも別の年の準優勝者の方がレベルが高いということもあるのかも知れません。まあ、そんなタイトルなんていうのは飾りですから、私としては美味しいコーヒーを楽しむことができればそれでいいわけですが…

ともかくカフェロッソはかなり気に入りましたので、また近いうちに訪れたいと思いますが、美味しいケーキとデザインカプチーノがあればきっと妻子を退屈させることもないでしょうから、今度は家族で行くことにします。日帰りにはやや遠いので、松江辺りに宿を取った方が得策かもしれませんが。