ソフトウェアの開発において非常に役立つのがデバッガですが、組込みの制御ソフトウェアの場合に以前はICE(In-Circuit Emulator)と呼ばれるものが使われてきました。これはターゲットシステムに組み込んで使われ、MCU(マイコン)の動作をエミュレートしながら各種情報をトレースしてくれるものです。このICEはCPUサイクル毎の変化を記録していくことになるため、近年はMCUの高速化に追随することが難しくなり、MCUとの間を通信線で結んでMCUに搭載されたデバッガインタフェース(JTAG, NEXUSなど)と協調して動作するものが主流となってきました。
これらのツールは特に新しいMCUに実装する時に有用ですが、これまで国内市場はほとんど日本メーカーによって占められているような状態でした。ツール開発にはMCUメーカーの協力が欠かせないものなので、日本製MCUには日本製のツール、というのが当然のようになっていたのです。
そんな日本の状況に対して欧米ではLauterbachというドイツのメーカーが大きなシェアを占めています。日本ではつい最近まで代理店での対応となっていたため、ツールの販売には欠かせないサポート環境が整っていなかったためにユーザがなかなか増えなかったようです。このLauterbachも日本法人を設立し、本格的に国内市場に参入しようとしているようです。
このLauterbach社の主力デバッガはTRACE32と言われるものなのですが、これが痒いところに手が届く、かなりの優れもので、さすがに多くのユーザをかかえるだけのことはあります。私の会社にデモに来てもらった時も「こんなことはできないかな、と思ったことは大抵できる」と言われていましたが、まさにその通りでした。また、「開発中のMCUなどで何らかの問題があった場合でも数日で、早ければ一日で修正版が送られてくる」とも言われ、これはまさかと思っていたのですが、実際にドイツ本国との時差を利用して翌日には修正されているというようなこともありました。
このような状況を見ると、デバッガだけに限らず最近はあらゆる市場が国際化してきているため、日本の会社も国内だけを見て商売しているようではすぐにシェアをさらわれてしまうのではないかと危惧してしまいます。以前は日本からの輸出で潤っていましたが、バブル崩壊以後は守りに入ってしまって積極性が失われているようなので、「攻撃は最大の防御なり」を実践する必要もあるのではないかと思います。