Steve Jobsこれさえ読めば誰でもJobsのようなプレゼンが! …というわけにはいきませんが。

仕事柄、取引先が事業や技術の説明のプレゼンテーションをするのを聞いたり、社内で作成されたプレゼンテーション資料のチェックをしたりということがありますが、やはりその出来は千差万別で、レベルの高いものはすんなり理解することができるのに対し、出来の悪いものは聞いているだけでも苦痛になってしまうものです。全般的にはプレゼンテーションと言いながらスライドの体裁をしたドキュメントの説明になってしまっている場合がほとんどで、PowerPointのスライドさえ使っていればそれはプレゼンであると誤解されてしまっているのではないかと思います。

一方、製品発表会やWWDCの基調講演でAppleのCEO Steve Jobsが見せるのは単なるプレゼンテーションの域を超えた一つのエンターテイメントです。会場にいる観客はもちろんのこと、その講演をビデオで見る人も惹きつけ、Apple製品のファンでなくとも虜にしてしまうような非常に魅力あるイベントにしてしまっています。私もこのJobsのプレゼンテーションはいつも楽しみにしていて、ここ数年は欠かさず見ているのではないかと思いますが、本当に分かりやすく、下手なテレビ番組を見るよりもよほど面白いものです。

では、このJobsのプレゼンテーションの秘密というのは何なのか、いったいどうすればJobsのように見る人を惹きつけるプレゼンテーションが出来るようになるのか、Jobsが行った過去のプレゼンテーションを分析しながら解説したのが「スティーブ・ジョブズ 脅威のプレゼン – 人々を惹きつける18の法則」という本です。私自身は今のところプレゼンテーションを行う機会というのは特にありませんが、誰かに何かを説明するときに応用できるところもあるのではないかと思い、勉強のつもりで読んでみました。

サブタイトルでも「18の法則」と言っていますが、Jobsのプレゼンテーションのシナリオ、演出、準備の3つの段階の中から重要なポイントを18項目あげて説明しています。しかし18項目というのはここで紹介するにはちょっと多いですよね。本書の中でも「リストで提示すべき項目は3つ」と言っていますから、「これは」と思ったものを私なりに3つにまとめてご紹介しておきたいと思います。

まず、今言ったとおり、伝えようとしていることを3つか4つにまとめることです。確かにあまりに細かい項目にわかれているものは最後まで集中力を保って聞くことが難しいものです。これはプレゼンテーションに限らず、文章を書く際にも応用できるものかもしれません。これはGeorge MillerThe Magical Number Seven, Plus or Minus Twoという論文の「数字が7桁から9桁を超えると短期記憶で処理するのが難しくなる」という研究結果でも裏付けられているものだそうです。

次に、メッセージを的確に表現した簡潔なヘッドラインを提示し、それを繰り返し用いることです。それによって伝えたい事柄を強く印象づけることができます。また「簡潔な」というのは重要なポイントで、難しい専門用語に逃げてしまうことなく平易な言葉でストレートに伝えることが必要です。実際、Jobsのプレゼンテーションは実に簡潔な言葉と言い回しなので、非常に分かりやすいものです。

最後の一つは、十分に練習するということです。それによってスライドの文章やメモに頼って読み上げるだけになったりせず、伝えたい重要なキーワードを自然に強調したり、不意の事態にも動揺せずに対処することができ、またデモもいとも簡単なことのようにスムーズに進行できるようになります。Jobsは本番の前に1日数時間の練習を何日も繰り返し行なっているということですから、あの素晴らしいプレゼンテーションもJobsの天賦の才だけによるものではなく努力の賜物であるということです。

ということでこの本には私にとってもためになるキーワードが散りばめられていて、すぐにでも役に立ちそうです。ただ、業務で作成するプレゼンテーション資料をJobsが使うような簡潔なものに変えていく、というのはなかなか理解が得られそうにありません。周囲の人間が皆Jobsのプレゼンテーションを見て、そしてこの本を読んでくれればうまくいくかもしれませんが…