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アルジャーノンに花束を

ロールシャッハテストこれもSF。

先日、「ダウン症で神経細胞の増加を抑制している遺伝子を特定し、その遺伝子の働きを抑えて神経細胞を増やす化合物も発見した」というニュースがあり、研究チームはその化合物を「アルジャーノン」と命名したとのことですが、その命名の是非についても巷で話題になっていたようです。元になっているのはDaniel Keyesの著作である「アルジャーノンに花束を」というSF作品ですが、議論の中で「ちゃんとこの本を読んでいる人であればこのような命名はしないだろう」というような発言がありました。実は私もこの作品の名前だけは知っていたものの読んだことがなかったので、この発言をきっかけに、よい機会なので読んでみることにしました。

アルジャーノンに花束を〔新版〕
早川書房 (2015-04-30)
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主人公のチャーリイ・ゴードンは知的障害を持っているため32歳ながら6歳児並みの知能とされていますが、パン屋の手伝いをしながら、知的障害者専門の学習クラスに通っています。その熱心な学習意欲を買われ、脳手術により知能を向上させるという臨床試験の被験者となります。このとき、先に動物実験の対象となって能力の目覚ましい向上を見せていたのがハツカネズミのアルジャーノンでした。手術は成功してチャーリイの知能は著しく発達しますが、それとともに彼の生活も一変し、本人も周囲の人々も戸惑うことになるのでした。冒頭を要約するとこのような感じでしょうか。

物語はすべてチャーリイの一人称として、主に「経過報告」として日記のような形で綴られていますが、この経過報告こそがこの作品の肝といえるところです。ストーリーとしては映画化したら素晴らしいものになるのではないかと思いましたし、現に何度も映画やテレビドラマ、舞台で演じられているようで、2015年にも日本でドラマ化されていたようなので観たという人も少なくないかもしれません。しかし、この作品では映像として観るのと、文章として読むのとではまた違う楽しみがあるはずです。原作から和訳する際にも非常に苦労したことでしょうが、日本語ならではの表現に置き換えてとてもうまく描いているのではないかと思います。

この作品のSFたるところは「手術により知能を高める」ということと、その後の経過とに限られていて、物語自体それ以外は一般的なドラマと何ら変わりないように見えます。しかし、SFといえば宇宙船やタイムマシンを連想しがちですが、言ってみれば現代の科学技術ではありえないことはすべてサイエンス・フィクションなのですから、この作品も紛れもないSFと言えるわけです。また、その言わば実験的な表現手法はとてもSF的で、文芸作品にはあまり見られないものに感じられました。

ということで私も読み終わったあとでは、最初に取り上げた「ダウン症の治療に役立ちそうな物質」に「アルジャーノン」と命名するセンスには違和感があります。ただ、チャーリイの手術に用いられたのがその化合物のようなものであるのだとすると、発見した人たちが作品にあやかってそう名付けたくなるのも分からないではありません。でもそれでは暗示されている未来が明るいものではないような…

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