最近のニュースである程度知られるようになったかもしれませんが、Routemasterと聞いてそれがいわゆるロンドンバスのことだとすぐにわかるという人はそういないでしょう。ロンドンの街の風景の一部となっている独特の赤い二階建てバス、Double Deckerの代名詞的存在であるRoutemasterが老朽化のために、1956年の運行開始からほぼ50年という長い任期を終え、ついに今年の12月9日を以て引退するそうです。
Routemasterの特徴は航空機製造技術を活用したという丸い屋根と、そして何より車両最後部にあるドアのない乗降口にあります。ドアがないために乗客はいつでも乗り降りでき、行き先に都合のいいバスを見付けるとすぐに飛び乗ることができるのが便利で楽しかったのですが、そのために命を落としてしまう人も毎年1人はいたということなので、現代社会ではなかなか問題があるのでしょう。
また、運転席は客席とは完全に仕切られて独立した状態になっており、料金の収受は車掌(Conductor)が行うことになります。このConductorがまた驚くほど乗客の動きを把握していて、誰がどこで乗ってきてどこで降りなければいけないのかをしっかりと管理しています。観光都市でもあるロンドンですから、このConductorにもちょっとした観光案内をしてもらうことができて便利だったのですが、最近のワンマンバスと比べれば人件費は2倍になるわけで、そのコストも小さいものではなかったのではないでしょうか。
私もロンドンに住んでいた20年前にはかなりお世話になりました。自宅のすぐ近くの路線288番は住宅地を走るバスだったのですでにワンマンで運行されていたのですが、中心部のOxford Circusから最寄り駅のEdgwareまで走る113番のバスはRoutemasterで運行されていましたので、あえて地下鉄には乗らずバスに乗るというようなことをして楽しんでいました。当時は幹線ほどRoutemasterが多かったように思いますが、乗り降りの際に料金収受が発生せず、複数人が同時に乗降できたので停車時間が短くできるというメリットがあったのかもしれません。
そんな素晴らしい乗り物ですが、最後に製造されたのが1968年ということですから、最も新しいものでも既に40年近く走っているということになります。古い車なだけに機構もシンプルで壊れにくかったのかもしれませんが、さすがに限界はとっくに超えてしまっていたことでしょう。今後はHeritage Routemasterとして限定された路線でのみ運行されるということですが、これもなくなってしまう前にぜひもう一度ロンドンに遊びに行きたいと思います。Routemasterもいなくなると、ロンドンの風景も違うでしょうね…