Pencilsさすがにここまではついて行けません。

私は子供の頃から文房具が好きで、用があるわけでもないのに伊東屋東急ハンズの文具売り場で文房具を眺めては悦に入ったりしていたものですが、今月近所に新しい文具店が開店するということなのでそれを楽しみに待っていたりもします。いったい文房具のどこがなぜ好きなのかと聞かれても明確に答えることはできないのですが、まあ好きなものは好き、理屈ではありません。何か琴線に触れるものがあるのでしょう。しかし私の場合、文房具はあくまで使うことを前提に購入し、使って楽しむものであるわけですが、そうでない人もいるようです。

作家の片岡義男氏といえば「スローなブギにしてくれ」を代表作とし、数多くの作品を世に送り出している大作家であるわけですが、この人は私の想像を超える文房具マニアであるようです。この片岡氏が自信の文房具への愛を込めて書いたと思われる「なにを買ったの? 文房具。」という本はパッと見以上に凄い本なのではないかと思います。

なにを買ったの? 文房具。
著:片岡 義男
東京書籍 (2009/03/25)
ISBN/ASIN:4487803381

装幀はいたって地味なもので、書店や図書館で棚に並んでいても手に取ってみることまではなかなかしないような気がするのですが、今回はたまたま図書館の新刊コーナーにあったのが目に止まり何気なくページをめくってみて、只者ではない何かを感じて借りてみることにしたのでした。実は片岡氏の作品はこれまで読んだことがありませんでしたが、私も名前だけは知っていたので「なぜこんな有名作家が文房具の本を?」というのが引っ掛かったのです。

総ページ数は140ページ程度ですが、厚手のコート紙が使用された全ページフルカラーで、半分ほどのページに写真が掲載されています。これだけふんだんに写真を使って文房具を語ること自体普通ではありませんが、これらの写真も片岡氏自身がリバーサルフィルムを使用して3ヶ月もの時間を掛けて撮影したものだそうです。光源に真昼の自然光を使用しているので、陰影の深い暖かみのある色合いの写真になっています。最近見慣れたコントラストの高いデジタル写真とは明らかに異なる懐かしさを感じる絵が、本文の古風なフォントとマッチして今年発行されたばかりとは思えない風格を与えているようです。しかしその被写体はあくまで文房具です。いくつかの色鉛筆、ペン、消しゴム、ノート、そして封筒や糊などをそれぞれならべただけのような写真を、それらを商品として売るためでもないのに撮る人がどれだけいるでしょうか。しかしその配色や配置といった構図の取り方に、被写体に対するただならぬ愛情を感じてしまいました。

文章の方は最初から最後まで、小見出しがあるだけで章立てされることもなくただ徒然と、愛する文房具の数々について綴ったものになっています。よくもまあ文房具だけでこれだけ語れるものだと感心してしまったりもしますが、そこはさすがにプロの随筆家ですから読んでいて退屈することもなく、片岡氏の話を聞きながら一緒に文房具店を巡っているような気分になることができます。まあそれも文房具好きでなければどうだかわかりません。

紹介されている文房具の中には私も先日購入したVaimo11 FLATなどもあったりしますが、その他に「これは欲しい!」というようなものもいくつかあって、共感できるところがあるのは嬉しく感じました。3L Griffit三角定規などは非常に魅力的です。しかし、私もさすがに10年分以上ものストックを抱えるほどノートを買うことはしませんし、買ったとしても置いておく場所がありません。私の場合は欲しいと思っても使わないかなと思えば諦めますが、そこを踏み越えてしまうと歯止めが効かずに片岡氏のようなことになってしまうのでしょうか。ここまで極めればそれで本を書いてということにもなるのかもしれませんが…