硫黄島からの手紙ほとんどの台詞が日本語でもアメリカ映画。

東京都小笠原村に属する硫黄島は現在、島全体が海上自衛隊の基地となっているため、特別な許可がない限り一般市民の立ち入りは不可能となっています。それでもこの島が有名なのは、第二次世界大戦末期の激戦の地であるためで、ここでは日本側兵士の95%までにもなる20,129名が戦死し、戦力面でも物資面でも圧倒的に有利であったアメリカ側も6,821名の戦死者と21,865名もの負傷者を出すという、日米間で最も激しい戦闘であったと言えるようです。しかし、私もこうした細かいことは今調べて知ったことであり、敗戦から65年経った今、戦争の記憶が急速に風化しつつあるのは間違いありません。

今でこそ同盟国となっている日本とアメリカとの間に、かつてこれだけ激しい戦闘があったのだということを、日米それぞれの側から映画としてほぼ同時に作られたのが「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」という2本の映画です。私も今回「硫黄島からの手紙」を観るまではどれほど激しいものであったのか、どれほど悲惨なものであったのかということはほとんど知りませんでしたが、この作品はそれだけでなくいろいろ考えさせられるところのある戦争映画の傑作と言えるものなのではないかと思いました。

硫黄島からの手紙 [DVD]
監督:クリント・イーストウッド
ワーナー・ホーム・ビデオ (2010/04/21)
ISBN/ASIN:B003EVW5IW

「父親たちの星条旗」がアメリカ側の視点の作品であるのに対し、この「硫黄島からの手紙」という作品は日本の立場から見た硫黄島の戦いを描いたもので、登場人物のほとんどが日本人であり、台詞もほぼ全て日本語です。アメリカでも英語字幕付きでそのまま上映されたそうですが、これはあくまでハリウッドスタジオによるClint Eastwood監督のアメリカ映画なのです。しかし、綿密な調査に基づいて作られたものであり、明らかにおかしいというようなところはないようです。もちろん、私が観ていて気付くようなものは一つもありませんでした。

物語の中心人物の一人は栗林忠道中将という実在の将官で、ハリウッド映画での日本人の顔となっている渡辺謙が演じています。この人の演技力に疑問はないのですが、これだけあちこちの作品に登場しているとあちらの人々も「またか」と思ってしまうのではないかと心配になってしまいます。

もう一人の主人公は西郷昇という名もなき架空の一兵卒ですが、これを演じているのがここしばらくジャニーズ事務所で最も活躍している「」のメンバーの一人である二宮和也です。実際にこの作品を観てみるまでは「どうしてジャニーズのタレントなんかが起用されたのか」と疑問を感じていたのですが、観てみればなかなか素晴らしい演技を見せているのではないかと納得出来るものでした。日頃テレビで見るときと口調があまり変わらないため、どうしても二宮だという意識が抜け切れませんでしたが、たかがジャニーズタレントと侮るべきではないでしょう。子供の頃から厳しいレッスンを受けてきているだけのことはあるようです。

物語は階級の全く違うこの二人の人物を中心に描かれていて、それぞれが持つ家族や背景の描写を挟みながら、この二人の心境を考えさせるものになっています。生粋の軍人にとっての戦争と、召集令状により戦地に派遣されただけの者にとっての戦争は大きく違うものでしょうが、それぞれが背負っている家族にはそう大きな違いはないはずです。それは敵兵にとっても同じことでしょう。そこがこの作品のテーマの一つでもあるようです。

この映画を観てどうしても感じるのは戦争そのものの悲惨さです。どうして一般市民が駒として使われ倒れていかなければならないのか、また上層部の対立が原因で無駄死にしていくこともあり、理不尽の極みとも言えます。さらに戦っている相手にも実は自分たちと同じように家族があり生活があるのに、どうして互いに殺し合わなければならないのか、その納得出来る答えはあるのでしょうか。あるのであれば教えて欲しいものです。