Inceptionこれは果たして現実なのか、それとも夢なのか…

私が子供の頃から持ち続けている疑問に「私が今見ている世界は本当に存在するものなのか」というものがあります。実際に手で触れることができるものは間違いなく存在するようにも思えますが、しかしその触れる、あるいは見る、聞く、その他五感というのは私の感覚でしかなく、私の神経を通して私の意識が感じているものでしかありません。それらのものが実際には存在せず、神経に何らかの装置を接続して脳に直接入力されている感覚であったとしたとき、区別できると断言することができるのでしょうか。

そういった状況を設定として使用していたのが映画「マトリックス」三部作であったわけですが、これらの作品ではコンピュータが創り出した仮想世界に主人公らが入り込み、擬人化されたソフトウェアを相手に戦いを繰り広げていました。と、こう書くと本年末に続編の公開が予定されている「トロン」と共通している部分があるような気もしますね。

しかしもっと身近な仮想世界といえば、ほぼ間違いなく誰もが体験したことのある「夢」です。眠りの浅いレム睡眠の状態で見ることが多いということですが、その夢の中を舞台として繰り広げられるアクションを映画にした作品「インセプション」が高い評価を得ているようだったので私も観てみることにしました。

誰かの夢を共有してその夢のなかに入っていく、という肝心のその部分はあまり詳細には描かれておらず、どのような方法で共有することができるかについては明らかにされていないのですが、そこはファンタジーということにしておいてもいいのでしょう。夢の中へは「調合師」による薬で導入され、そしてその中は「設計士」と呼ばれる者が創り出した世界になっていて、夢の中ならではのパラドックスなども存在できます。また夢の中で死ぬと夢から覚めることになります。

Leonardo DiCaprio演じる主人公のCobbは相手の夢のなかで潜在意識から情報を盗み出す一種の産業スパイですが、ある時渡辺謙演じる斉藤なる日本人からターゲットに意識を植え付ける「インセプション」の依頼を受けます。これは難しい技術であり相棒のArthurは断ろうとしますが、Cobbには魅力的な提案から断わりきれず引き受けることになり…というようなことです。

ということでこの作品では渡辺謙が結構重要な役どころで出演しているのですが、この他のハリウッド作品でもよく見る顔になってきました。こうして日本人俳優が全世界を対象にした映画で活躍しているのを見ると嬉しい反面、ハリウッドで日本人俳優といえば渡辺謙しかいないという状況は寂しいような気もします。やはり言葉の壁が大きいのだろうと思いますが、他の欧米諸国からは数多の俳優が出てきていることを思うと、決して日本人俳優のレベルが低いということではないはずなので、日本人役をアジア系の他国俳優に取られてしまわないよう頑張ってもらいたいものです。

それはともかく、この作品では夢の世界を何階層も積み重ね、夢の中で夢を見せ、またその中で…とやっているのでかなり複雑なことになっています。それぞれの階層で起こっている出来事が並行して描かれ、またその階層が深くなるごとに時間の進み方が遅くなっているので、SF的思考に慣れていない人には難解に感じられることでしょう。おかげで私は思っていた以上に楽しむことができましたが、隣で見ていた年配の男性は一緒に夢の中へ入っていたようで終盤辺りで軽いイビキが聞こえてきましたから…

それにしてもこの作品のエンディングは秀逸です。ありがちとも言えるかもしれませんが、実に考えさせる終わり方になっていて、考えても謎は深まるばかり…見せるべきものをあえて見せないことで観終わった後の印象が大きく違っているのではないでしょうか。