アメリカ人にとって7月4日といえば独立記念日ですが、実際にはこの日をIndependence Dayと呼ぶことはほとんどなく、単にFourth of July、つまり7月4日とだけ呼んでおり、挨拶も”Happy Fourth!”だったりします。それほどかけがえの無いものということなのでしょう。私もこの週末を待ち望んでいたのですが、それは今年の4日が金曜日で3連休になるから、ということでもなく、去年は下位クラスしか観戦できなかったNHRAのイベント、Summit Racing Equipment NHRA Nationalsが毎年この週末に行われるからなのでした。帰国前に一度はTop FuelやFunnycarの走りを見ておかなければ悔やんでも悔やみきれないというものです。
この日はまだ家族が日本にいましたし、イベントの最初から最後まで8時間も誰かを付き合わせるのは無理なので、今回はオハイオ州NorwalkにあるSummit Motorsports Parkまで一人で出掛けることにしました。しかし、日本から帰ってきて間もないために時差ボケが直っておらず、前の晩にはほとんど一睡もできない状態だったので途中で眠くなってしまうのではないかと思いましたが、それは全くの杞憂でした。さすがに帰り道はかなり眠気が来ましたが、会場のあの状態で眠れる人はそうそういないでしょう。
オープニングセレモニーの挨拶でも述べられていましたが、NHRAは他のプロモータースポーツとは異なりオールアクセス、つまり観客席だけでなくピットを見学したりドライバーにサインを貰ったりといったところまでチケット代に含まれている、とのことで、8時にレースウェイに到着してピットに向かうと、各チームがエンジンのシリンダーヘッドやカムカバーを外して入念な整備をしているところでした。チームやドライバーについての予備知識は全くないのでどこに注目すべきなのかも分からず何となく眺めてきただけですが、その景色だけでもワクワクしてくるものです。
ドラッグレースは基本的に1対1の勝負で行われるトーナメント形式となっていますが、最終日である日曜日には各クラスの決勝戦までが行われます。最初に始まったのは最上位クラスTop Fuelの準々決勝だったのですが、これにはいきなり驚かされました。というのは、タイヤを温め路面にゴムを付着させるバーンアウトで発生するもうもうたる煙の量と、実際のスタート時の爆発的な音量が下位クラスとはまさにケタ違いのものだったからです。Pro Stockまでのクラスは昨年も見ていましたが、全く比べ物にならないレベルです。Top FuelとFunnycarはうるさいという範囲を超えていて、耳栓なしでは間違いなく耳を傷めるでしょう。
もちろんその分、スピードも桁違いです。ドラッグレースは伝統的には1/4マイル、約400mで競うため日本ではゼロヨンとも呼ばれますが、2008年に起こったScott Kalittaの死亡事故をきっかけに上位2クラスは1000ft.、約300mへと短縮されています。この300mの距離を停止状態からわずか3.7秒(Funnycarでは4秒強)で走りきり、その時点での到達速度は320MPH、500km/h以上にも達します。この時ドライバーには4Gもの加速度がかかるということで、この過酷な状態で車両をコントロールするというのは並大抵のものではありません。またこの加速を生み出すエンジンは10000馬力近くにもなるということなので、そのエンジンにサイレンサーの類が何もなければあれほどの爆音になるのも仕方ないでしょう。
またPro Stock Motorcycleという二輪のクラスもあって、こちらは1/4マイルを7秒強で走るものですが、ウィリーバーが付いている以外は普通の体がむき出しの二輪車ですから、一度事故が起これば死は免れないでしょう。しかし思っていた以上に安定した走りをしていたので、実際に見ているとそんな不安はほとんど感じませんでした。もちろん傍からそう見えるだけでライダーは命を懸けているというのは間違いないでしょう。
ということで天候にも恵まれて暑すぎず寒くもなく、実にドラッグレーシング日和といえる日だったようでとても楽しめました。やはりTop FuelとFunnycarの走りが圧倒的で度肝を抜かれましたが、これは日本ではありえない、アメリカらしいバカバカしさといえるでしょう。また印象的なのは、こんなマッチョなイベントなのに年配の女性まで拳を上げて応援していることで、やっぱり違うんだなあと思ったものです。