Chappieどこからがフィクションなのか…

Neil Blomkampといえば「第9地区」や「エリジウム」の監督として知られていますが、南アフリカ出身のこの監督は祖国をこれらの作品の舞台としています。南アフリカというのは私も全く馴染みがなく、知っているのはかつてのアパルトヘイトと民間軍事会社Executive Outcomes、治安の悪さくらいのもので、日本からもアメリカからも遠いという地理的な距離もあってほとんど何も分かりません。現在の外務省渡航危険情報は「十分注意してください」のレベルですが、「殺人、強盗、強姦、恐喝、暴行、ひったくり、車上荒し、麻薬売買等の犯罪が昼夜を問わず発生しています。」というのはデトロイトも真っ青です。ちなみにデトロイトには危険情報は出ていません。

そのBlomkampの新作「チャッピー」が今月アメリカで公開されました。過去2作品がSFの皮をかぶせながらメッセージ色の濃い社会派作品だったような気がするので、純粋にSFを楽しみたい私には微妙な感じもあったのですが、独特な雰囲気があって面白いのは確かです。Rotten TomatoesTomatometerが30%というのも観るのにやや躊躇してしまうところだったのですが、一方日本の試写会を観た人の声は総じて好評だったので、玄人受けはしないということなのだろうと気軽に観てみることにしました。

しかし。観たのは公開翌週の土曜日、朝10時からの回だったのですが、私の他に一組4人がいただけでした。一部SFよりもファンタジーに寄ってしまっているような部分も無きにしも非ずでしたが、私自身はそれなりに楽しむことができましたし、ちょっと目頭の熱くなるシーンもありました。それなのになぜ人気がないのかと考えると、これはレイティングが失敗なのではないかと思われます。この作品ではギャングスターらが重要な登場人物となっているため、どうしても卑語が飛び交うことになり、それが原因でレイティングはRを免れることができません。そのため、本来なら子供にも観てもらいたいところなのに、それは叶わないわけです。一方日本ではレイティングでは残虐性と性的描写が主な評価対象となりますので、PG12となりました。このレイティングの違いは興行成績に大きく影響することでしょう。

さておき。物語の舞台となっているのは今回も南アフリカ最大の都市ヨハネスブルグですが、高い犯罪率に対処するために警察が導入したTetravaal社のロボット警官が大きな成果を上げる、というところから始まります。このロボットの発明者であるTetravaal社のDeon Wilsonは睡眠時間を削って人間と同じように感情と意見を持つ人工知能の開発に成功し、それをロボット警官で実験させて欲しいとCEOに懇願するものの聞き入れられません。そこで損傷を負って廃棄予定のロボットを密かに家に持ち帰って実験しようとしますが、その帰り道にロボットを無力化する方法を欲したギャングの襲撃を受け、ロボットもろとも囚われてしまいます。その後いろいろあって、その人工知能をプログラムされたロボットこそがCHAPPiEであり、そのギャングNinja, Yolandi, Amerikaの3人がCHAPPiEの育ての親となります。

このギャングスターを演じているNinjaとYolandiの2人はDie Antwoordという南アフリカのヒップホップグループのメンバーが実名で演じています。ここでも祖国の繋がりが活かされているわけですが、ただ役者が演じているだけの狂気とは違い本物のように感じます。とはいえ彼らも普段から演じているだけのことかもしれませんが。

CHAPPiEを声とモーションキャプチャーで演じているのはBlomkamp作品の常連、Sharlto Copleyです。CHAPPiEはずっと人間の子供のようなので、それを演じている様子を想像するとおかしく思えますが、モーションキャプチャーの技術というのは凄いものですね。全く違和感がなく、本当にロボットが動いているようにしか見えません。しかしそれでも、キャプチャーしなければ人間のような自然な動きは作れないのだとすると、それはそれでなかなか奥が深いものです。

一つ面白かったのは、Hippoというギャングの親玉が喋るとき、私には英語に聞こえるのですが、それなのに英語の字幕が出るのです。訛りがきつくてとりわけ聞きづらいということなのかもしれませんが、私が聞く限りではそれほどでもないような気がします。実は英語ではなかったなんていうことだったりするとちょっと恥ずかしいですが、私が聞き流していた単語が標準的な英語ではない方言だったのでしょうか。

ということで。私は結構気に入って、子供にも見せたいと思ったのですが、やはりレイティングがRだというのが引っかかってしまいます。まあ日本ではPG12なので子供でも問題ないと判断されているのだから良いのでしょうが、親としては何で判断すればよいのか、なかなか難しいものです。むしろ子供にこそ見せたい内容のようにも思ったのですが。

ちなみに下のアートブック”Chappie: The Art of the Movie“は映画を観る前に買ってしまっていましたが、最後の方はネタバレだから気を付けろというAmazonの評価に従って見ずにいて正解でした。観る前に買おうと思っている人はお気をつけください。

Chappie: The Art of the Movie