Elysium - Matt Damon as Max Da Costaこのくらいの格差は決して非現実的ではなさそう。

2009年の映画「第9地区」はこれまでのSFには無かった設定で、低予算の作品ながら大きな反響を呼び、受賞はならなかったもののアカデミー賞では4部門でノミネートされるまでになりました。監督のNeil Blomkampは1979年生まれということで当時29歳、今でも33歳という若さですが、個性ある作品作りで将来的にも期待されるところです。そんなBlomkampの最新作「エリジウム」は主演にハリウッドの大スターMatt Damonを迎え、一方悪役には第9地区での主演が光っていたSharlto Copleyを再び起用しており、私としても非常に期待して観てみました。

タイトルの「エリジウム」とはエーリュシオン、すなわちギリシア神話上の死後の楽園から来ているのですが、この作品の舞台となる2154年にはそう名付けられた宇宙コロニーが地球の衛星軌道上に作られており、そこで裕福な人々は高度な医療機器により老いや病を知らずに暮らしています。一方貧しい人々は人口の過密な地上で十分な医療も与えられず、搾取される生活を送っており、極端な貧富の差が広がっている、という世界です。そのスラムとなったロサンゼルスで暮らす主人公のMax Da Costaは工場での作業中の事故で大量の放射線を浴びて余命5日と宣告され、なんとかしてエリジウムへいき治療を受けようと危険な仕事を請け負い…という物語です。
Elysium - Exoskeleton
この作品中でMaxは強化外骨格Exoskeletonを直にネジ止めされて装着されますが、これは機能的にも山海教授率いるサイバーダイン社Robot Suit HALを彷彿とさせるものです。しかし、これはアクチュエータが外付けされているだけで骨格はもともと人間が持っているものを利用しているだけに見えます。したがって全ての力が各関節にかかってしまうので、あまり大きな力は発揮できないように思えるのですが、まあそこはファンタジーということで目をつぶっておきましょう。

主演のMatt Damonはさすがの大スターですが、一方Sharlto Copleyは第9地区での頼りなさとは一転した凶悪なキャラクターながら、もともと悪役を得意としているかのような、かなりリアルな狂気を感じました。主人公Maxから見た場合の悪の親玉である防衛大臣Jessica Delacourt役はこれまた大女優のJodie Fosterですが、この人の冷徹さは演技だけとは思えないほどです。一方ヒロインFrey SantiagoはAlice Bragaが演じており、落ち着いた女性らしさで素敵です。

この作品のレーティングはRということで残虐シーンに弱い私は少々心配だったのですが、ドクドクと血が流れたり、レールガンによる銃撃で四肢が飛び散るような描写はあったものの、それほど刺激の強いシーンはなかったのではないかと思います。実は私が一番緊張したのはExoskeletonを装着する手術のシーンだったのですが、案じたほど直接的な描写はなく助かりました。

SF作品としての裏付けはあまり細かいものではなく、ちょっとした矛盾を感じる場面などもいくつかありましたが、SF的なのはそういう設定にしたというだけで、どちらかというと社会風刺的な面が強いような気がしました。例えばエリジアムのコロニー部は密閉されているわけではなく、シャトルは直接侵入することができてしまいます。空気を留めておけるほど強い重力があるというわけではないと思うのですが、そこについては特に説明がないので良くわかりません。

ちなみに地球とエリジアムを往復するシャトルはなかなか格好良くできていましたが、特にCarlyleの乗る個人用シャトルはブガッティの高級機で、馬蹄形のモチーフも取り入れられて雰囲気のあるものでした。他にもいろいろ出てくるとメカが面白かったのですが、あとは電気自動車くらいでしたね。この辺りがちょっとSFとしては物足りなく感じてしまったところかもしれません。