Her離婚の原因にもなりそう。

人間の意識、人格、精神、自我というものは一体何なのでしょうか。子供の頃から疑問に思っているのは私だけではないと思いますが、これだけ科学が進んでも自分たち自身のことはまだよくわかっていません。脳のシナプスが電気刺激を伝搬させて…というところまでは私も知っていますが、他の人とは別個の独立した意識を、健康な人間であれば等しく備えているというのも不思議なところです。そしてそれは他の動物のものとは明確に区別されているというのも、当たり前のようでそうではないような気がします。

そして一方、人間の人格と同じようなものをコンピューター上で再現する、いわゆる人工知能の研究も長らく続けられていますが、今のところプログラムされた以上の振る舞いを見せることはできず、本当の知能に進化するためには大きなブレークスルーが必要でしょう。Microsoftりんなは結構面白いですが、プログラムされた通りにパターンマッチングでそれらしいセリフを返してくるだけのはずです。とはいえ、それでもちょっと楽しめるので、まだ試していない人は遊んでみるといいと思います。

ということで、そんな人工知能が開発されて、オペレーティングシステム(OS)が人格を備えるようになったら一体どうなるでしょうか。SiriCortanaでもそれっぽく受け答えをするのでそんな日は近いのかと錯覚してしまいますが、そんな断片的なやり取りだけでなく、完全な人格を持って常時アシスタントとして寄り添ってくれるようになったら、一体どうなるでしょうか。それが映画「her/世界でひとつの彼女」のテーマです。

her/世界でひとつの彼女 [Blu-ray]
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¥ 1,460

5つ星のうち3.6

(2016-02-21現在)

妻と離婚協議中の主人公Theodoreは未練と失意のまま浮かない日々を送っていると、ある日街角で人工知能を備えたOSoneというOSを知ります。インストール後、性別の希望の他いくつかの設問に答えてパーソナライズすると、ユーザーに最適化された人格でOSが目覚め、Theodoreが名前を聞くとOSはその場で自らにSamanthaと名付けます。

なお、この世界ではスマートフォンのような端末と自宅のPCはどこにいても繋がっていて、OSはそれらを統合的に管理しているため、ユーザーのメールや電話、インターネットの情報などはすべてOSの知るところとなります。私達のPCやスマートフォンも同じようなものですし、秘書を雇っていると思えばいいのでしょうが、なんとなく不安に感じてしまうのはまだ人工知能を信じることができないせいでしょうか。しかしそんな不安は別にすると、自分のことをよく理解しているということになりますので、相手が人工的な存在であったとしても場合によっては恋愛感情が芽生えてしまうのもある程度やむを得ないことかもしれません。

主人公のTheodoreを演じるのはJoaquin Phoenixですが、メガネと口ひげ、浮かない表情のせいか冴えないおじさんのように見えてしまいます。妻役はRooney Maraですが、回想シーンに登場する彼女は非常に魅力的です。未練で美化されていることになっているのかもしれませんが、幼なじみという設定にはちょっと無理のある年齢差です。

またTheodoreには大学の同級生のAmyという親友がいて、これはAmy Adamsが演じているのですが、これが普通にいそうな感じに自然で凄く良かったです。そしてSamanthaの声はScarlett Johanssonが当てていて、非常に色っぽいです。確かにこの声にはやられてしまっても無理もないかもしれません。

ということで、将来OSが人工知能により自由に喋るようになった時、その声のラインアップは「あの有名俳優の声で語りかける」とセールスポイントの一つになるのでしょうね。もう一つはセットアップ時のプロファイリングでいかにユーザーにピッタリ合う性格を持たせられるかでしょうか。まあこれについては使っているうちに合わせてくれるというのでもいいのでしょうが。

しかしこの物語の延長で考えると、人工知能の持つ人格が完全なものであればあるほど、コンピューターの中に閉じ込めておくのは難しいというか無理でしょうね。人間を狭い部屋の中に閉じ込めておくと精神に異常をきたすように、なにか手を打っておかないと人工知能も人間の望むようには働いてくれないでしょう。また人格があるのなら人権的にも問題ですね。まだまだ現実のものとなるまでには時間がかかるということです。