ホンノンボ宇宙が凝縮された小さな世界

「ホンノンボ」と聞いても普通の人は何のことだかさっぱり分からないだろうと思いますが、ベトナムの盆栽の一種、正確には盆栽とホンノンボとは区別されるもののようですが、日本にはこれに相当するものは一般的ではないので一番近い表現が「盆栽の一種」ということになります。土台としてホンノンボ自体の大部分を構成する石を据え、その上にある程度の植物を配し、そしていくつかのミニチュアを置いたものになります。それだけのものなのですが、見る者によってはその頭の中にこれらによって構成される物語が浮かび、様々な印象を与える奥深い物となるようです。

私には盆栽を愛でる心はなかったのでこの本を読むまではこんなことも知りませんでしたが、宮田珠己氏の本を漁っているうちに見つけた「ふしぎ盆栽 ホンノンボ」というそのものズバリの本は、ホンノンボの世界に魅入ってしまった宮田氏が何度も本場ベトナムに足を運んで取材を重ねたものです。

ホンノンボ―ふしぎ盆栽
著:宮田 珠己
ポプラ社 (2007/03)
ISBN/ASIN:4591097021

この本はポプラ社のウェブマガジン「ポプラビーチ」に連載されていたものを加筆修正したものだということで、現在もバックナンバーを見ることで本書の内容にごく近いものを読むことはできます。ウェブの方がすべての写真がカラーであるという点では勝っているようにも思いますが、一部エピソードがウェブの方にはなかったり、逆に書籍の方では割愛されているエピソードもあるようです。

これまでに読んだ宮田氏の本に比べると、本書は写真の割合がかなり高く、逆に独特の脱力系イラストは全く見られません。これはある意味残念な点でもあるのですが、全般的に文章のおふざけ度合いもかなり低く、これはポプラ社の編集方針によるものなのかもしれません。とはいえ、宮田氏の言動の端々には独特のユーモアが垣間見られるので、それなりに楽しむことはできるものです。

それにしても、多くの読者がホンノンボそのものどころか盆栽についての予備知識も乏しい状態で、一冊の本を読ませてしまうというのは凄いことではないでしょうか。まあこれまでに読んだジェットコースターにしろ、ウミウシにしろ、巨大仏にしろ、普通の人がそんなに深く追究しようとしないものについて、それほど深く掘り下げるでもなく追い続けて本にしてしまうというのはやはり並大抵のことではありません。まあ仕事だからと言ってしまえばそれまでですが、このテーマの選定が普通ではないと思います。

というわけで相変わらず面白くて一気に読み切ってしまう宮田氏の本もこれで4冊目、次はどんなテーマで楽しませてもらえるでしょうか。