誰にも真似できない。
紙の本にはそれならではの良さがあるので完全に置き換えることはないでしょうが、電子書籍も徐々に世の中に浸透してきているのではないでしょうか。iPadなどのタブレットでもアプリを使用して読むことができるのでそれを利用している人も少なくないかと思いますが、専用端末としてはAmazonのKindleのシェアが高いでしょう。そのKindleの人気機種Paperwhiteの新機種が今日発表されましたが、それと同時に驚くべきサービスも発表されました。それがKindle Matchbookです。
Amazonから紙の書籍を購入した場合、それと同じ書籍のKindle版を$2.99, $1.99, $0.99もしくは無料で購入できるというもので、アメリカでこの10月からスタートするとされています。当初は10000冊以上というところからということですが、これは各著者や出版社との交渉が進めばどんどん増えていくものと思われます。
このサービスが凄いのは、「Amazonから紙の書籍を購入した場合」というその前提条件が、1995年の書籍販売事業の開始時点までさかのぼって適用されるということです。それだけの購入履歴を管理しているのは世界中でAmazonだけでしょうから、同じようなサービスを他社が真似しようと思ってもできるものではありません。Amazonに個人情報を握られることに不満を持っている人もいるようですが、これだけのものを見返りに与えられては拒むのも容易ではありません。
このMatchbookに似たようなサービスがあるとすれば、同じくAmazonが今年初めに立ち上げたAutoRipでしょう。CDを購入するとそのMP3版もダウンロードすることができるというもので、これもAmazonのCD販売開始までさかのぼって適用されます。これとの違いといえば、音楽は気に入れば何度も繰り返し聴くものであるのに対し、書籍の場合はよほどの愛読書でもなければそう頻繁に読み返しはしない、ということでしょうか。紙の書籍を読んだ人が電子書籍でもう一度読むかと考えると、実はインパクトほどには大きな影響のあるものではないのかもしれません。もう一つの違いは、AutoRipがMP3というDRMフリーのフォーマットであるのに対し、MatchbookはおそらくDRM付きのKindle専用フォーマットであろうということでしょうか。これはAmazonなりの戦略や出版社との事情にもよるでしょうから仕方ないかもしれません。
これまで私は電子書籍販売の一つの理想形はコンピュータ関連書籍専門の出版社O’Reillyが行っているものだと思っていました。ここではもともと電子書籍は割安で販売されているのですが、紙で購入した書籍を登録すると同じ物の電子版を$4.99などの格安で購入することができるようになります。また、頻繁にセールを行っていて、上手くタイミングを合わせると半額で購入できるので、ついつい買ってしまうのです。さらに素晴らしいのは、対応フォーマットが豊富なだけでなく、DRMフリーなのでどこでも読むことができてしまいます。タイトルにもよりますが、多くの場合Kindleで読めるmobi版もあります。
したがって、総合的に考えてもO’Reillyの書籍はAmazonよりも直接O’Reillyから購入した方が得だと言えるでしょう。しかし、全ての出版社がこのような対応をとることは不可能ですし、出版社ごとにサービスが乱立してしまうのも使い勝手の悪いものになるかもしれません。O’Reillyと同様のサービスは一部の力のある出版社が提供し、Amazon以上のサービスを提供できないところはAmazonに依存するということになっていくのでしょうか。まあしかし日本で同じようなサービスを提供するのはいろいろ課題があってしばらく先になってしまうのでしょうね。Amazon.co.jpでは数多くの書籍を購入していますので、非常に待ち遠しいものなのですが。