Farnsworth想像もつかない贅沢さ。

今、家族はみな一時帰国していて、私だけ一足早くミシガンに帰ってきているのですが、週末を一人で過ごすという機会もなかなか無いのでこういう時でないと行けないところに行こう、と考えて思い浮かんだのが建築の見学です。以前Frank Lloyd Wrightの「落水荘」を観に行った時は家族もそれなりの興味を持ってみてくれましたが、それはあくまで旅行の道中だったからでしょう。わざわざ建築を見るためだけに何時間も車に乗って行き、見たらまたすぐ帰るというのはさすがに理解が得られるとは思えません。

私にはどうしても見ておきたかった建築が一つあり、それが今回のファーンズワース邸(Farnsworth House)でした。ミシガンの自宅から4,5時間のドライブということなので、それなら日帰りできると思ってあまり考えなかったのですが、落ち着いてみると距離はちょうど500kmあり、往復1000kmを一人で運転して一日で走るというのは普通の人ならあまり考えないかもしれません。結果的にはなんとかなったので良いのですが、さすがに帰り道は途中で疲れを感じるところもありました。

しかし行ってみて本当に良かったです。ツアーに申し込むとガイドが1時間少々案内してくれます。ツアーは空きがあれば現地で申し込むこともできますが、ウェブサイトで予約することができ、ウェブサイトの方が手数料が割安になっています。なお、このツアーの代金は$20と高いものではありませんが、すべてファーンズワース邸の保全を行っているナショナル・トラストの運営に使われるということです。また、建物の中で写真を撮るためには$10追加して撮影許可を得る必要がありますが、週末の最終回と平日のみ対応で、一方で建物の外の撮影は自由となっているので、インテリアデザインを専門とするような人でなければ特に必要ないかもしれません。
Farnsworth House
この建築はFrank Lloyd Wright
Le Corbusierとともに世界三大建築家の一人とされているLudwig Mies van der Roheが、パーティーで知り合ったEdith Farnsworthの依頼で建てた別荘で、ガラス張りでワンルームの贅沢の極みのような建物であり、住居としては優れたものではありません。川のすぐそばに建てられているため、増水に備えて高床式となっているのが特徴で、建物全体が8本の鉄骨で支えられたようになっています。

ビジターセンターから始まるツアーで敷地内を歩いて行き、木の影に白い姿が見えた時から非常に絵になる美しい建物なのですが、とても細かいところまで考えられたこだわりの建物でした。建物を支える鉄骨は普通に考えればボルトで止めるなどするところですが、それも見た目の美しさを考えて溶接し、しかもその溶接跡が見えないようにきれいに処理してあります。また床の石や内部に使われている木材もとても高級なものを使用しているとのことです。

こんなワンルームでもバスルームは2セットあり、また大きなキッチンも備えられています。キッチンの上面パネルは特注のステンレス1枚もので、当時としては難しいものだったようです。その一方で、どうせ週末を過ごすだけだからということでクローゼットの類は全く備えられていませんが、さすがにそれでは過ごしにくかったようで、Edithは大きな洋服ダンスを置いていたそうです。

そういった説明を聞きながら見て回っていると、やはり一人で勝手に見ているだけの時と違って色々なイメージも湧いてくるので、ツアーというのも悪いものではありません。一通りの説明が終わったあとは外に出て自由に写真を撮ることができますが、ツアーの間隔は1時間なので次のツアーが来てしまう前に終えないとその人達が写ってしまうことになります。そこで私も焦ってしまったようで、建物正面から全体を広角で収めるような写真を撮りそびれてしまったのが痛恨です。

ということで、日本にはMiesの作品がないので馴染みが浅いかもしれませんが、Wright、Le Corbusierと並ぶ巨匠の作品をこの目で見ることができて私は大変満足しました。長時間のドライブの甲斐があったと思います。