百聞は一見に如かず、でした。
今週になって日本の一部界隈で突然話題沸騰になったのがClubhouseというサービスです。シリコンバレーで2020年3月から始まったものですが、「音声版SNS」や「音声版Twitter」という形で紹介されており、それだけを聞くとツイートの代わりにボイスメールのような数秒から数十秒程度の音声で投稿するものなのかと想像してしまいますが、実態としては全く違うもので、それなりに新しさを感じるサービスでした。
少なくとも現在までのところ完全紹介制となっており、既存のユーザーからSMSで招待を受けなければ使用を開始することができません。アプリをインストールして起動すると自分の電話番号を入力し、紹介を待つ間に自分のIDを予約することができますが、そこから先へ進むためには招待コードの入力が必要となります。なお、私はこの予約の時点で自分がTwitterやInstagramで使っているのと同じIDである「@sszk」が「他の人がすでに使用中」となっていたのでちょっと萎えてしまっていたのですが、いざ招待していただいてから念のために試してみると希望通りのIDで登録することができ、予約とは一体何だったのかという感じになっています。ひょっとすると先に予約していた人が別のIDに変更したので空いたということなのかもしれませんが、ほかにも同じ状況だった人がいるので、ただのバグなのかもしれません。
また、今のところiOS用のアプリでしか使用することができず、残念ながらAndroidやPCなどからはアクセスができない状態となっています。これはいずれ解決されるのでしょうが、招待してくれるという人がいるのに参加できないというもどかしい状況の人もいるようです。
さて、幸いにも招待いただくことができたので早速登録してみて、ちょっとばかり使ってみたところですが、想像していたイメージとはだいぶ異なるものでした。確かに「音声版Twitter」という表現も納得できる部分はあるのですが、まず音声はリアルタイムでしか聞くことができないというのが大きな特徴です。タイムラインに相当するのはRoomというものですが、ここでその時行われている会話を聞いたり、発言したりして参加することができます。発言は無秩序にできるものではなく、Roomの主催者であるモデレーターが発言権を管理しているので、発言したければ挙手により要求する必要があり、好ましからざる発言を繰り返せば追い出されることになるでしょう。
Roomは公開・非公開の設定が可能で、非公開のRoomは当事者以外には見えないのでプライベートな会話に電話のような感覚で使うこともできます。逆に公開のRoomは見つけた人が自由に聞くことができるので、公開討論やラジオのような感覚で有名・無名の人の発言や会話を発信したり楽しむことができます。場合によっては一人で文字通りつぶやくこともできるでしょう。このあたりが「音声版Twitter」という言い方につながっているわけです。
このClubhouseに参加するための紹介状は各ユーザーに最初に2名分づつ割り当てられます。完全紹介制のSNSという仕組みは過去にOrkutやmixiなどでもあったものですが、招待枠がわずか2名というのはこれまでにない厳しいものではないでしょうか。これによって飢餓感を煽る戦略もあるのかもしれませんが、周囲が盛り上がっているのに紹介を受けられず疎外感を持ってしまっている人がいるようなので、逆効果になる恐れもあり難しいところではないでしょうか。なお、招待の権利は利用実績により追加で割り当てられるとのことです。
「クラブハウス」という名前の所以について、日本語で「クラブ」という文字列からはなんだかキラキラしたものをイメージしてしまうかもしれませんが、本来は会員制の集会所を意味するものなので、興味や価値観を共有する者同士が集う場所というようなことになるでしょう。そういったところでは紹介制であることが多く、「誰の紹介を受けたか」が重要な意味を持つようです。そのため、このClubhouseでもプロフィール欄にはいつ、誰の招待で入会したかが見えるようになっており、その人の背景を窺わせることになっています。
なお、2名だけなのであまり機会は多くないことですが、紹介の仕方がちょっと分かりづらかったので私も調べる必要がありました。結局、招待相手はアプリに共有した連絡先の中からしか選択することができないので、まずアプリに対して連絡先を公開する必要があり、そしてその連絡先に紹介相手の電話番号が登録されていなければなりません。したがって、紹介してもらうためには既存ユーザーの誰かに電話番号を知らせる必要があるので、リアルな知人以外は簡単に紹介しづらい状態になっており、それが会員同士のネットワークを確実で信頼できるものにしているということのようです。
これまで仕組みのことばかり述べてきましたが、実は音声の品質が高く、聞きやすく喋りやすいということも人気を支える重要なポイントではないかと思います。おそらく音声データの帯域はそれほど広くないので音質自体は若干ガサガサした感じに聞こえることもありますが、何しろ遅延がほとんど感じられないほど小さいということが喋りやすさにつながっており、発言者どうしが「お見合い」してしまうことも少なく聞きやすいということになっているのではないでしょうか。普段仕事で利用しているMicrosoft Teamsよりも遅延は明らかに少なく快適です。
ということで、広告が入っているわけでもないので今はまだどのような形で収益化されるのかが見えないサービスですが、昨年5月の時点で評価額は1億ドルと発表されるなどしています。急速にユーザーを増やしているのは現在のコロナ禍で人同士のリアルなコミュニケーションが取りづらくなっていることが一因であることは間違いないでしょうが、果たしてその先はどうなるのか、どうしようとしているのか興味深いところです。