iTunes昨日の朝日新聞朝刊経済面トップに「アップル、著作権料未納」というなにやらきな臭い大見出しの記事が載りました。既にasahi.comでは記事が削除されてしまっているようなので概要部分を引用すると、曰く

携帯音楽プレーヤー「iPod」にインターネットから楽曲を取り込んで聴くサービスで、米アップル社が日本音楽著作権協会(JASRAC)に対して著作権使用料を支払っていないことがわかった。05年8月の日本でのサービス開始以降、未払い額は少なくとも2.5億円に達する。JASRACはアップルに対して改善を要求しているが、作曲家らは今のところ「iPod」ブームの恩恵にあずかれていない。

ということで、一方的にAppleに問題があるかのような記事になっています。これを読んだ人はきっと「やっぱりアメリカの会社は融通が利かず、強引で自分勝手なのだな」と思ってしまうでしょう。実際、私もそれに近い印象を受けてしまいました。

この件に関し、未だAppleからのリリースなどはないようなのですが、実はこれがとんだ誤報であるということがわかりました。JASRACからは「正確さを欠く内容」という穏やかな表現で事実関係を明らかにする発表が行われていますが、根本的な「著作権料未納」という部分が実際には「暫定著作物使用料の支払いがすでに行われて」いるということで大きく食い違っていることになります。

まあ朝日新聞社もスクープということで裏付けの確認が不十分だったというだけで、まさかAppleを陥れるために組んだというわけではないでしょうが、ちょっとお粗末に過ぎるのではないでしょうか。今後CDなどのメディアに変わって著作権料収入の本命と見込まれるネット販売の動向に影響してはならないと考えたのか、JASRACは

当該記事は当協会と同社・関係各社の信頼にもとづく良好な関係を損なう恐れがあるため、記事を掲載した新聞社に対して記事の訂正を求めています。

としていますが、今のところ朝日新聞社から訂正記事などは掲載されていないようです。

一方アメリカではAmazon.comDRM(デジタル著作権管理)フリーの音楽ダウンロード販売を開始することが発表されました。既にDRMフリーへの対応を明らかにしているEMIをはじめとする12000以上ものレーベルが参加するというかなり大規模なものになるそうですが、何といってもファイル形式がde facto standardであるMP3になるということが注目すべきポイントです。

MP3であれば、ATRAC専用のSONY製品を除くほとんどのデバイスで直接再生することが可能であり、また対応していない場合でも変換することは可能なので事実上全てのデバイスで聴くことができるということになります。またコピー回数の制限なども存在しないので、個人的なバックアップも自由にできないというような理不尽な制限が課せられてしまうこともなく、ユーザ側にとっては理想的なファイル形式と言うことができるのではないでしょうか。まあ、音質面やライセンス面で不満を持ち、Ogg Vorbisなどのフリーで高音質といわれる規格を支持する人もいるかと思いますが、商用ベースでは多くの機器が対応しているということの方がはるかに重要なことです。

ただし、これはあくまで米国のAmazon.comのニュースであり、日本ではRIAJやJASRACの反発が予想されるので、Amazon.co.jpが同じようなサービスを開始できるようになるのはかなり先のことになってしまうのではないでしょうか。彼らはCDの売り上げが減少を続けているのをWinnyなどのいわゆるP2Pを経由した違法コピーのせいだと主張しているわけですが、実際にはそんなものの影響は微々たるもので、まともな人は本当に聴きたいと思った曲はCDを買うなりレンタルするなりで合法的に入手するでしょう。それなのに売れなくなっているというのは、携帯電話やゲームなどお金を使うものが増えたということもあり、魅力を感じる音楽が減ってしまっているということが本当の原因であるということに早く気付くべきです。あるいは気付いていない振りをしているだけなのかもしれませんが、CDというメディアを売る商売から音楽というコンテンツを売る商売への転換を早く受け入れてもらいたいものです。結局は黒船がやってこないとダメだというのは昔から変わらないのでしょうか…

今回発表されたAmazonの参入はiTunes Storeで大きな収益を上げているAppleにとっては脅威となることでしょうが、ユーザ側にとっては選択肢が増えて嬉しいことですね。これまでのiTunes Storeでは再生機器がiPodに縛られることになり、iPodとiTunes Storeで相乗効果を上げて互いの分野で圧倒的なシェアを握っていたわけですが、今後はどうなっていくのか、展開に目が離せません。ひょっとしたらWalkmanの復権というのも…ないでしょうか?