Link - Walt Becker「まともに走るヒュンダイ? それ、矛盾語法じゃない」

いきなり「リンク」などと書くとここではハイパーリンクのことだと思われるかと思いますが、この本でいうところの「リンク」とは生物の遺伝・真価の上での繋がりのことです。中でも特にテーマとなっているのはホモ・エレクトゥスホモ・サピエンス・サピエンスつまり「ヒト」との間の大きな隔たりを繋ぐもの、すなわち「ミッシング・リンク」です。どうしてヒトは突如として高度な知性を身に付け、文明社会を築き上げ、地上の覇者となり得たのか…いきなりあまり書くとネタバレになってしまいますのでこの程度にしておきます。

リンク
著:ウォルト ベッカー
徳間書店 (1999/03)
ISBN/ASIN:4198609918

ということで、主人公ら古人類学者がアフリカ北西部マリの奥地で発掘調査をしていて、まさに世紀の大発見たる重要な化石を発見したところから物語が始まります。まずここで見付けたものからしてかなり現実離れしているのですが、その後話が進むにつれどんどん壮大なファンタジーの様相を呈してきます。ジャンルとしてはSF、サイエンスフィクションなのかと思っていたのですが、どうやらサイエンス風味のファンタジーという辺りが適当なようです。

全体的に話のスケールが大きすぎるのでどうも現実味のないものに思えてしまうのですが、古人類学関連の蘊蓄はそれなりに語られていて、またダーウィニズムを覆しかねない新しい発見について、様々な宗教が暗示していた事実を裏付けるものとして解説が行われており、それなりに研究されていることはわかりました。ともすれば荒唐無稽な話になってしまいがちなところを、各種宗教で語られているのはこれだ、と説明することで「ひょっとしたら…」と思える程度にまで引き戻しているようです。

著者のWalt Beckerは映画監督、作家、俳優と多才なようですが、この小説は若干荒削りで、話の運び方にやや強引なところがあるように感じました。また、始めから3分の1辺りのところでクライマックスを迎えたかのように盛り上がってしまい、その高みのままで進行していくのでちょっと読み疲れてしまうようなところもありました。このままの勢いでどこまで行ってしまうのだろう、と不安になるくらいだったのですが、それは言い方を変えれば盛り上げ方が上手いということになるのでしょうか。これはデビュー作ということなので今後に期待…と言いたいところなのですが、1999年のこの作品以来新作は発表されていないようなのが残念です。本作の「訳者あとがき」には「本書も映画化が決定している」「すでに第二作を執筆中」と書かれているのですが、そのどちらも叶っていないようで…

ちなみに冒頭に引用した台詞は本作でヒロインが口にしているものなのですが、こんなことを言ってしまっていいのでしょうか…映画化するときにはカットしておかないとクレームは必至ですね。