Point of Impactガンアクションと陰謀渦巻くサスペンスとでまさにハリウッド映画にうってつけ

どういうわけか行きつけのシネコンでは上映されなかったのか、あるいはあっという間に終わってしまってタイミングが合わなかったかで見そびれてしまったのですが、映画「ザ・シューター 極大射程」はなかなか評価が高かったので観たい映画でした。これが先週からDVDでも販売・レンタル開始されたので近いうちに見るつもりなのですが、原作の評価も高いようなので映画を観る前に読んでおくことにしました。しかし、文庫本のみの取り扱いとなっているようなのでいつも行く図書館には置かれておらず、予約をして別の図書館から取り寄せてもらう必要があり、また全体的にも冊数が少なくすぐには順序が回ってこなかったので、レンタルが始まる前に読んでおこうと思ったのも結局間に合いませんでしたが、まあそれは仕方ありません。

極大射程〈上巻〉 (新潮文庫)
著:スティーヴン ハンター
新潮社 (1998/12)
ISBN/ASIN:4102286055
極大射程〈下巻〉 (新潮文庫)
著:スティーヴン ハンター
新潮社 (1998/12)
ISBN/ASIN:4102286063

ベトナム戦争で輝かしい戦果を上げて味方の危機を何度も救いながらも親友を失い、自身も負傷して戦線を離れ、除隊後は田舎でひっそりと銃と犬だけを愛して暮らす伝説的スナイパーBob “The Nailer”ことBob Swaggerを主人公とする、ガンアクション満載のちょっとハードボイルドな冒険小説です。このBobがアメリカ大統領の暗殺を阻止するためにオブザーバーとしてCIAを名乗る組織に協力を求められるのですが…というような話なのですが、他の書評を見るともうちょっとばらしてしまっているのが多いですね。私自身はこの辺りから「どうなるのだろう」と楽しみながら読んでいたので、これ以上は触れずにおきます。

この作品は敵の組織の罠同様、実に巧妙に物語の伏線が張られていて、最終的にそれらが絡み合った糸をほどいていくかのようにスッと解かれていくのが実に気持ちのいいものになっています。序盤にさりげなく、しかし意味ありげに書かれている数行の事柄が私の頭の中で最後まで引っ掛かっていたのですが、実はBobが自身を守るために用意していた重要な保険であり、それが最後に効果を発揮するシーンは痛快そのものです。

またライフルなどの銃に関する記述が非常に詳細なものであるのも本書の特徴的なところです。主人公がガンマニアなのでリアリティのある描写を求めれば当然こうなるのでしょうが、読者もまたガンマニアであることが想定されるので手が抜けないということもあるのかも知れません。しかし、アメリカのガンマニアというのは銃器の所持が非常に制限されている日本では考えられないようなことをしているのですね。日本ではせいぜい雑誌を買い漁りモデルガンを組み立て眺め、せいぜいサバイバルゲームというのがいいところではないかと思いますが、向こうでは銃を改造し、銃弾を自分で作ったりまでしてしまうのですね。まあそれが一般的なものだとは思いませんが。

それにしてもバッタバッタと人が撃たれて死んでいくこういう作品を読んでいると、正義のために放たれる銃弾は正義そのものであると考えられているようなのがちょっと恐くなります。戦争というのもこの延長線上にあり、まさに合法化された集団殺戮でしかないような気がしますが、銃犯罪の多発するアメリカでは既に麻痺してしまっているのでしょうか。全米ライフル協会アメリカ合衆国憲法修正第2条の曲解が正されない限りどうしようもないのでしょうが…