アメリカ合衆国上院敵も手段はともかくそれほど悪いことを企んでいたようには見えないのですが…

安倍氏の突然の辞任により行われた自由民主党総裁選挙は第22代総裁として福田氏を選出したようですが、国の最高責任者の選出に際して必ずしも国民の意志を反映しないというのはしばしばあることです。今回も一般市民の間では都市部を中心に麻生氏を推す声も強かったようですが、ほとんどの派閥が支持を表明した福田氏が結局選ばれることになりました。

自分の国の政治ですらわからないことだらけなのに外国の政治の仕組みなどわかるはずもないのですが、まだアメリカ大統領の選ばれ方の方が透明性が高いように見えます。しかし、知る機会がないのでよくわからないのは議会の方で、まず日本と同じような二院制であることは知っているものの、上院というのが日本の参議院よりもずいぶん格式の高いものに見えます。というより、参議院の存在意義の方がかなり曖昧になっているのかも知れませんが、アメリカの上院議員というのはかなりの権威を持っているようです。何しろ日本の倍以上の3億という国民がいるのに上院議員は100人しかいないわけですから、それだけでもかなり「選ばれた」人達と言えるのは間違いないでしょう。

まあ、本題に関係ないのでこれ以上は述べませんが、今回はこの上院議員の一人が重要な登場人物となっている、A.J. Quinnellの小説「トレイル・オブ・ティアズ」を読みました。

トレイル・オブ・ティアズ
著:A.J. クィネル
集英社 (2000/05)
ISBN/ASIN:4087733270

アメリカでも有数の脳神経外科医が何者かに偽装自殺までされて拉致されるというところから物語は始まるのですが、この手の小説で医者が主人公というのは珍しいのではないかと思います。主人公が医学も心得ているというのはままあることですが、この場合は脳神経の手術の技術以外には取り柄らしいものを持たない純粋な医師です。そんな中年男がなぜミステリーの主人公に…というのが始めの頃に抱く疑問ではないでしょうか。また、この主人公が相手の組織と対決するのと並行して、偽装自殺に疑問を抱いた妻が捜索を試み、それとはまた別に組織で行われていることに疑念を持った上院議員らも調査を始め…と最初はそれぞれ独立して進行する物語が最後には一つに絡み合うようになります。

ちなみに、本書のタイトルになっているThe Trail of Tearsというのは、

1838年にアメリカ合衆国のチェロキー族インディアンを、後にオクラホマ州となる地域のインディアン居留地に強制移動させたときのことをいう。

ということだそうですが、アメリカの白人にとってはあまり輝かしい歴史とは言えない出来事ですね。実はこれに関しては、チェロキー族の登場人物はいるもののあまり詳細には描かれておらず、逆にあえてぼやかして書かれているようにも見えるのですが、結末には重要な役割を果たします。とはいえ関わり方に疑問を感じるようなところもあり、何となく無理やり参加させられているようにも見えるのは気のせいでしょうか。

どうもよくわからないところが多い作品だったのですが、複雑な設定にはちょっとこれまでに見たことがないものを感じました。著者はなかなかの大御所で、しかも3年ぶりに書かれたもののようなのですが、もう少し細かいところまで練られていれば…などと生意気なことを感じてしまいましたが、あえてこう描いていることを私がくみ取れないだけなのかもしれません。なんだか最近本を良く読むようになって、余計色々なことがわからなくなってきてしまいました…