インフルエンザウィルス見て見ぬ振りはできません。

先週末に行われた職場の忘年会の席でも予防接種をしたかどうかなどで話題になったのですが、今年は例年にも増してインフルエンザに関する話題をよく見聞きするような気がします。我が家では子供だけで大人は受けていませんが、毎年予防接種を受けているという人も珍しくなくなり、小さな子供のいる家庭やご年配の方の間では特に一般的となっているのではないでしょうか。

しかし、予防接種をしておけば安全、「型」が違っていても少しは効果がある、インフルエンザも風邪の一種、などという誤った知識を持った人が多いのも事実で、「これで鳥インフルエンザが来ても大丈夫」などと嬉しそうに言っている人を見ると何と言ってあげたらよいものかわからず目が泳いでしまいそうになります。そうは言いながらも私もそれほどインフルエンザについて知っているわけでもないので、「感染爆発―鳥インフルエンザの脅威」という本を読んでみました。

感染爆発―鳥インフルエンザの脅威
原著:Mike Davis
紀伊國屋書店 (2006/03)
ISBN/ASIN:4314010010

著者はMike Davisという人ですが、この人の経歴がとても異色です。

精肉工場の工員や長距離トラックの運転手などを経て、労働運動の活動家に。その後、リード大学とカリフォルニア大学で歴史学を学ぶ。辛口の社会批評家として知られ、現在はカリフォルニア建築大学で都市論を教えている。

と紹介されていますが、この人の専門は一体何なのでしょうか。非常に幅広い経験と知識を持ち合わせていそうですから、様々な視点から物事を捉える能力の持ち主なのは間違いないかもしれません。ただ、少なくとも医学に関する経験はないようで、本書も医学的な見地ではなく社会的な見地から鳥インフルエンザへの対応についての問題提起となっています。

冒頭でも引き合いに出されていますが、インフルエンザの感染爆発(パンデミック)の脅威というのは、14世紀にヨーロッパの人口の3割を死に至らしめたペストと同程度のものだと言われています。もちろん今はまだ大流行には至っておらず、特に日本では対岸の火事と決め込んでいる人もいるのではないかと思われますが、実際には単なる偶然や幸運で食い止められているに過ぎず、いつパンデミックとなってもおかしくない状況のようです。

この本を読んでいると誰でもだいぶ危機感を持つようになるのではないかと思いますが、鳥インフルエンザの流行を防ぐために家禽にワクチンを与えるということが、実は既知のウィルスを選別淘汰することにより新種の発生を促進することに他ならないというのは盲点でした。やはり物事というのはちょっと視点を変えると全く別のものに見えるということですね。また、同じことは人間の間でも行われていて、日本では普通のインフルエンザでもすぐにタミフルが与えられてしまうわけですが、この特効薬は万一の時のために温存しておく必要があるでしょう。そうはいってもインフルエンザにかかるとしんどいので、本人はすぐにでも治して欲しくてよく効く薬にすがってしまうというのもわかるのですが。

ところでどうして今年はこんなに「インフルエンザ」や「パンデミック」という普段は聞かないはずのことばをよく耳にするのかと思ったら、「感染列島」という映画が年明けに公開されるのですね。まさにパンデミックに至る過程を描いた初めての映画ということで世界中からの注目を浴びているようですが、題材としては非常に興味深いものです。早くもハリウッドでリメイクのオファーがあるとされていますが、商業主義に走った演出過多なものを観るよりもオリジナルの方が現実的だったりするかもしれませんが、私はとりあえずDVD化を待つことにします。