Gran Torinoテーマは「生と死」

今年5月から7月にかけては「天使と悪魔」「スター・トレック」「ターミネーター4」「トランスフォーマー/リベンジ」「ハリー・ポッターと謎のプリンス」と前評判が高く個人的にもかなり期待している人気シリーズの続編が目白押しの状態で、こんなペースで映画館に通っていいものだろうかとも思ってしまうわけですが、今はその端境期のような感じでそれほど「これが観たい!」というようなものはありませんでした。しかし、ちょうど今日は毎月1日の映画の日で、妻も特に用事がないということだったので「マリー・アントワネット」以来久しぶりに2人で映画を観に行くことにしたのですが、何を観たかというと意外に評判の高い「グラン・トリノ」です。

Clint Eastwoodの製作・監督・主演という作品ですが、これまでEastwoodの作品というと大昔にテレビで「ダーティ・ハリー」のシリーズを観たくらいで、有名な「マディソン郡の橋」などですら観ていないので監督としての彼については全く知らないのでした。そんな私が観て云々言う資格があるのかどうかはわかりませんが、アカデミー賞の作品賞と監督賞のダブル受賞を2度経験しているのですから、その監督としての才能については今さら語るまでもないことでしょう。

Clint Eastwoodが演じるのは朝鮮戦争の従軍経験があり、Fordの組み立て工として長年働いてきた老人Walt Kowalskiです。作品は妻の葬式の場面から始まりますが、他人に厳しすぎて身内からも敬遠されてしまっている孤独な姿を印象づけられます。

このWaltの所有する車が作品タイトルになっている1972年式Ford Gran Torino Sportという古き佳き時代のアメ車で、隣に住むおとなしいモン族の少年Thaoこの車を盗み出すようそそのかされてWaltに見つかってしまったことから意外な方向に話が展開する、というものです。

作品中では主にWaltの口から人種差別的な言葉がポンポン飛び出しますので、字幕のなっちもこれには苦労したのかもしれませんが、使っていない言葉に置き換えて微妙に台詞の意味を変えてしまう癖は相変わらずなので困ってしまいます。アジア人を差別するのに「イエロー」と言っておけばいいというものではないでしょう。

作品全体としては実に渋い人間ドラマなのですが、アメリカの田舎町では似たようなことが本当にありそうです。銃、ギャング、多民族社会など、あらゆる面で日本とは違う世界が舞台となって描かれていますが、アメリカではこのリアリティが大きな評判を呼んだということなのでしょうか。多くのアメリカ人が自らも危機感を抱いている問題なのかもしれません。

今、この渋い頑固な老人を演じられるのはClint Eastwoodだけのような気もしてしまいますが、彼自身の俳優としての集大成にもふさわしい重厚な作品で、これは観る価値があったと思います。