軍艦島このまま朽ち果てるに任せてはいけない。

長崎県に端島という名の島があります。「軍艦島」という俗称の方が通りが良く、そう聞けば「ああアレね」と言う人も多いのではないかと思いますが、島の全周をコンクリートの防波堤で固められ、島内に無数のコンクリートの建築物が建ち並ぶ姿を海上から見ると、それはまさに軍艦のようにしか見えないのではないでしょうか。

戦前から三菱の経営する炭鉱として開発され活気に溢れていたであろう端島も、エネルギー革命により主役の座が石炭から石油に移ったことで1974年に閉山されることとなってから既に30余年が経過し、以来無人島となってひっそりと余生を送っていました。しかし近年、産業遺産として見直されるようになり、世界遺産の暫定リストに登録されたり、ごく一部ながら見学コースが設定されて見学ツアーが募集されるなど注目を浴びるようになりました。

その仕掛け人とも言えるのが軍艦島オデッセイなどを運営するオープロジェクトなのですが、このオープロジェクトにより軍艦島を沢山の写真と共に徹底的に解説した「軍艦島 全景」という本を見てみたのですが、これがまた素晴らしく充実したものでした。

軍艦島 全景
著:オープロジェクト
三才ブックス (2008/12/10)
ISBN/ASIN:4861991811

160ページフルカラーの全編にわたって島内の施設・設備の1つ1つが丁寧に紹介されているのですが、他のジャンルのものでもこれほど詳細に解説されたものはなかなか無いのではないかという徹底ぶりです。かといって興味のない人が見るとどうでもいいではないかというようなマニアックなものになってしまうこともなく、端島の歴史や独特の文化・風俗を感じられるものになっているのではないかと思います。

島内の建造物は鉄筋コンクリート製のものが多いため今でも数多くの建物が残されているのですが、うち捨てられてから無人のまま30年以上が経過しているためにさすがに完全に廃墟と化してしまっています。かつて極端に緑の不足した島であったにも関わらず、現在はどこからかやってきた植物に覆われている部分が多いというのも皮肉なものです。

印象的なのは金属製のサッシや配管などの多くが塩害により原形をとどめていないのに対し、一見弱そうな木製の建具などが現在もそのままの姿で残っているということで、その過酷な環境と歳月の重みを思い知らされるようです。閉山後に建てられた灯台も金属製では持たず、20年あまりで強化プラスチック製に改められたのだといいますから、相当なものです。また、この灯台も炭坑の操業当時は24時間操業だったので不要だったというのも深いものがあります。

しかし、これだけの産業遺産を廃墟のままにしておくのはやはりもったいなさ過ぎます。できればフェルクリンゲン製鉄所のように一般公開して欲しいものですが、離島という地の利の悪さもあるのでそこまでは難しいとしても、今よりももう少し気楽に見学できるよう整備を進めて欲しいものです。今のように景気の悪いときには難しいのかもしれませんが、逆に雇用創出にはならないものでしょうか。