Steve Wozniak本人が幸せならそれでいいけれど…

今、AppleのSteveといえばほとんどの人が頭に思い浮かべるのは、現CEOで最近肝臓移植手術を受けていたことが明らかになったことでも話題になっているSteve Jobsでしょう。この人はこの人でApple創業の立役者であり、創業当初はもとよりAppleへの復帰後の業績回復に果たした役割も計り知れない物があると思うのですが、忘れてはならないのがもう一人の創業者であるもう一人のSteve、WozことSteve Wozniakです。経営には関わらずエンジニアとしての人生を選んだため表舞台に華々しく登場することはあまりありませんが、Appleの礎を築いたのは紛れもなくこの人であり、この人がいなければ現在のAppleはおろかPCの存在すらもどうなっていたことかわかりません。ということで、昨年末頃出版されたこのWozの自伝、「アップルを創った怪物 – もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝」という本を見つけたので読んでみました。

カリフォルニアで育ったWozが様々なイタズラを仕掛けて楽しみ、その後Jobsと出会い、ブルーボックスと呼ばれる「電話タダ掛け器」を開発し、HPへの勤務を経てApple Iを作り上げると共にApple Computerを創業し、そしてApple IIを世に送り出して大成功する…ここでWozの人生はクライマックスを迎えたようです。子供の頃から技術オタクだったWozにとっては金儲けであるとか名誉であるとかはそれほど重要なことではなく、一生楽しい設計をやっていきたいという気持ちは私にも理解できるところです。まあ成功した人だからこそ実現できることではあるので、羨ましいところなのですが。
Apple II
本人にとっては楽しい人生を送っているようなので他人が口を挟むことではないと思いますが、他人から客観的に見てこの人は成功者なのでしょうか。もちろんApple IIは多くの人々が考えていたコンピュータ像を大きく変えた「作品」であり、Wozの業績はもっと大きく讃えられるべきものなのですが、残念ながら彼はJobsの影に隠れた存在となってしまい、常に表舞台に立つJobsばかりが得をしているように見えてしまいます。

本書の中でもAtariに勤めていたJobsに協力してブロック崩しを設計した際、その報酬の大部分をJobsにくすねられたことに不満を表してはいますが、それでもJobsは親友であるとはっきり言っており、Wozとは全く性格の違うJobsと互いに補完し合うことで上手くいったのだと納得しているようです。そういう人の良さこそがWozの特質であり、誰にでも慕われるところなのでしょう。

また本書ではWozに関わることでどうしても沢山の技術用語が出てきてしまいますが、それを実に丁寧に、全くの素人にも理解できるような平易な表現で説明しています。一応同じ世界に棲む私にとってはわかりきったことで、逆に不正確なところが目に付いてしまったりもするのですが、それだけ広い読者層を想定しているということであり、また普段からあまり技術的なことには縁のない人々とも接しているということなのかもしれません。全体的に「僕はこんな凄いことをやってきたんだ」という本なのですが、これを読んで「Wozって凄い。僕もこんな風になりたい。」という少年が出てきたりすればまさに御の字ということなのでしょうか。