関東大震災や東京大空襲によって東京の建物は大部分が消失してしまい、戦前のいい雰囲気のある建築というのは残念ながらあまり見ることができません。一方、大阪では震災や空襲の被害の程度が東京と比べればまだマシだったということで、古き佳き時代の面影を残す建物が点在しています。街自体も比較的コンパクトだということもあって、それぞれが余り広くない範囲にあるというのも良いところです。先日、後輩Mがそんな建物のひとつ、「綿業会館」の見学に申込んだというのでそれに便乗し、M一家に混じって一緒に見学してきました。
見学は2時半からだったのですが、現地にはちょっと早めに到着したのでその近くにある「船場ビルディング」に行ってみました。通りに面した外壁はどうということのないものなのですが、エントランスから中を覗くとなんともいい雰囲気のある建物です。内部にはアトリウムがあって、外光が導入された内部に置かれたプランターの青々とした葉が清々しさを感じさせてくれ、真冬の寒さも忘れそうでした。
さて、主目的の綿業会館、実は見学を申し込んだのは2か月ほど前のことなのですが、毎月第4土曜日に見学会があり、その定員35人がいっぱいになってしまうというのは一体どんなものなのかといろいろ想像してしまいました。実際に行ってみると見学客の大部分は中高年の女性で、係の人が丁寧に説明してくれるガイドツアーのようなものでした。最初のうちは自由に写真を撮らせてくれればそれでいいのに、などと思っていましたが、歴史的経緯などをじっくり聞いてみると目に見えないものもいろいろ楽しむことができるような気がしました。
この綿業会館は日本綿業倶楽部という社交クラブの持ち物として作られ今に至るものなのですが、建物の特色としてはそれぞれの部屋が異なる様式になっているということが挙げられます。これは、クラブのメンバーが自分の好みに合う部屋でゆったりくつろいでもらいたいという配慮だったのだそうです。この中でも最も豪華で、一番人気があるとされる部屋がジャコビアン様式でしつらえられた談話室ですが、私もこの部屋は入るなり圧倒されてしまいました。特に素晴らしいのが壁面を覆うタイルタペストリーで、非常に味わい深いものです。この他の部屋もそれぞれ見所がありましたが、この部屋だけは別格と言えるでしょう。
見学会は1時間ほどで終わりましたが、なかなか充実したもので楽しむことができました。これで500円なら安いと思いますが、この代金が一体何に使われるのかはちょっと気になるところです。説明員の人件費でしょうか。
このあとはさらに近くの建物を巡ってみました。「旧大阪教育生命保険」、「旧大阪農工銀行」を外から眺めたあと、行ってみたのが「芝川ビル」です。ここは雑居ビルになっているので中に入って見学することができたのですが、正面入口の外観だけなのかと思いきや、内部もなかなか味のある建物でした。私は階段などの手すりが好きなようで、ここの手すりもちょっと意匠が凝らされていて良い感じです。手すりというのは人の手が触れるところなので柔らかい曲線になっていることが多く、そこに引きつけられるのでしょうか。
ということで、いくつかの建物を見て楽しんできたのですが、なにしろ残念だったのは張り巡らされた電線です。建物の外観を写真に納めようとしても、どの角度からでも邪魔されてしまい満足のいく写真を撮ることが出来ません。景気対策で公共工事が必要というときには真っ先に取り掛かってもらいたい問題だと思うのですが、都市部に集中するとか言われてしまうのでしょうね。納税者の多くも都市部に集中しているのですけどね…