ゴルゴ13さいとうたかを氏率いるさいとう・プロダクションといえば、100人中100人誰もが代表作としてゴルゴ13をあげるであろう劇画プロダクションです。日本で「劇画」というジャンルを確立した一人がさいとう氏であり、その緻密な描写とストーリーの作り込みは普通のマンガとは一線を画するものがあるように思います。

実はゴルゴ13というのは私の人生を大きく変えた作品なのです。というと何か感銘を与えたのかのようですが、そうではなく、高校在学中に悪友の一人がせっせと学校にゴルゴ13の単行本を持参するもので、私も一生懸命それを授業中まで読みふけってしまったためにみるみる成績が落ちていってしまい、結局そのツケが大学での留年という形になった、という負の影響を与えられてしまったということなのです。もちろん悪いのは100%私で、それだけのめり込んでしまうような素晴らしい作品だということなのですが…今でもゴルゴ13は大好きな作品ですが、このことはいつまでも私の頭の中で切り離すことができません。

それはともかく、先日後輩Mが「貸したいのだけれど会社には持って行きづらい」ということで私の家に遊びに来た際に持参してくれたのがこの「さいとう・たかをセレクション BEST 13 of ゴルゴ13」です。

さいとう・たかをセレクションBEST 13 ofゴルゴ13―Author’s selection
さいとう たかを さいとう・プロダクション
小学館
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ゴルゴ13は1968年から連載が始まり未だ続いているという非常に息の長いシリーズであり、単行本も143巻まで発売されているそうですが、この「セレクション」は作者であるさいとう氏自身の選りすぐりの13作品をまとめたものになっています。通常4話が収録されている単行本でも結構な厚みがあるものですが、13話ともなると実に1200ページ近くにも及び、厚さは6cm以上にもなります。1話1話の内容も非常に濃いこのシリーズですが、私は待たしてものめり込んでしまい、1日ですべて読み切ってしまいました。私は高校時代には60巻ほどまで読んだような気がするのですが、ここに収められている中に記憶に残っているようなものはありませんでした。おそらく読んでいても忘れてしまっているだけなのでしょうが、それはそれで好都合というものです。

しかしそれにしてもこれだけ多くの多彩なエピソードが40年近くにもわたって次々と生み出されているということには驚くばかりですが、これもさいとう氏が構築した分業制作システムだからこそなせる技です。作画や脚本は数多くのスタッフが携わり、実に完成度の高い作品を作り上げているのです。時事ネタや国際情勢を巧妙に織り込んで、あまりのリアリティに現実だと思いこむ人までいるほど完成されています。そう、これは背景も含めてあくまでフィクションであり、「国際情勢を学ぶことができる」などと考えてはいけません。

今回私がこの本を読んでいて何となく頭の中でダブらせてしまったのは映画「ミュンヘン」でした。この映画は暗殺を続ける主人公らの心の葛藤を描いたドラマとなっているわけですが、ゴルゴの場合はそういう心理描写は考えることができないので、映画化したとしてもゴルゴを主人公に据える限りアクション映画になってしまいますね。過去に2度映画化されているようですが、余りよい評判を聞かないところをみても難しいのでしょう。ハリウッドのスタジオが制作費をつぎ込めばなかなかの映画に仕上がりそうな気もしますが、そもそもゴルゴ13は海外ではあまり知られていないでしょうからあり得ませんよね。まあ劇画だからこそいいということもあるでしょうから別にいいのですが。