MunichSteven Spielbergが自ら監督し、ミュンヘンオリンピック事件をきっかけとしてパレスチナ人テロリストへの報復を指揮することとなった人物の苦悩を描いたドラマ作品「ミュンヘン」を観てきました。観る前からあまりいい評判は聞いていなかったのですが、映画の日だというのに開演10分前に劇場に入ったとき、誰も座っていなかったのには少々ひるんでしまいました。結局その後20人ほどは入ってきましたが、そのまま一人っきりだとしたら贅沢なことこの上ないというところでした。

題材となっている「ミュンヘンオリンピック事件」はミュンヘン虐殺という人もいるようですが、1972年のミュンヘンオリンピックの開催中にパレスチナの武装組織「黒い九月」が、イスラエル代表チームの11人を人質に取ってイスラエルに捕らえられたパレスチナ人の釈放を要求し、結果的に人質全員が犠牲となってしまった事件です。この事件に対して怒ったイスラエル政府がパレスチナ人テロリストの暗殺をイスラエルの諜報機関モサドの諜報員に命じる、というところから物語が始まります。事実を元にしたフィクションということなのですが、事実であることが確実なのは「怒った」というところまででしょうか。

結局、報復というのは血で血を洗う終わりのない戦いになるだけだ、ということを言いたいようなのですが、それは常識的な感覚を身につけた人であれば誰でもわかっていることでしょう。この映画の見所は、暗殺チームのリーダーが暗殺を繰り返しているうちに自らが逆に狙われる立場に転じてしまい、仲間を失っていくことで「次は自分ではないか」という恐怖から精神的に参っていく、その経過を描いているところでしょうか。追っているはずだった者がいつの間にか追われる側になってしまうというのは、手口が想像できてしまうだけに大変な恐怖でしょう。私にはとても耐えられませんが、そういう立場になることもまずありませんね。

しかしこの映画、ちょうど3時間ほどの長編作品なのですが、どうにも脚本が単調で盛り上がりがありません。私も途中で何度も時計を観てしまいました。この内容であれば2時間でも十分ではないかという感じだったのですが、ユダヤ系のSpielbergとしてはじっくり描かずにはいられなかったということなのでしょうか。報復を戒めるような内容なので「反イスラエル的」だと評する人もいるそうなのですが、それにしてはエンディングの最後のカットがスクリーン中央に据えたWorld Trade Centerのツインタワーを対岸に眺めるというのはアラブ系テロリズムへの批判を明確にしているように感じました。共通するのは「反暴力」ということなのかもしれませんが、ちょっと敵対心を煽ってしまうような気がしてしまいます。

制作側も興行的に成功するとは思っていなかったでしょうが、内容的には一般受けしませんね。トリノオリンピックの期間にぶつけてみた配給元のあざとさも空振りでしょうか。観た後で特に感動が残るようなこともありませんでしたし…やはり評判通りだったようです。まあそれでもイスラエル建国の経緯やミュンヘンオリンピック事件などについて興味を持つきっかけにはなりましたから、それはそれで目論見通りだったのかもしれませんね。

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