audio-technica充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない – クラークの三法則

最近夜行バスや飛行機に乗ることが何度かありましたが、本を読むにも薄暗く、寝るくらいしかないのに寝場所を選ぶ私は眠ることもできず、退屈で完全に時間を持て余していました。飛行機の場合は機内で音楽チャンネルなども提供されていたりするわけですが、エコノミークラスで貸してもらえるヘッドフォンは惨めになるくらい貧相なもので、外からの雑音ももろに入ってくるので全く楽しむ気になれません。自前のヘッドフォンもアダプターがあれば利用できますが、それでも飛行機の機内騒音を十分に遮るものは大きなものになってしまいそうです。カナル型ならそこそこいけるでしょうか?

そんなことを感じていたところで「轟音の地下鉄でノイズキャンセリングヘッドホン10製品をテスト! 通勤に使えるのはどれ?」というような記事を見つけ、地下鉄で使えるなら飛行機やバスでも問題ないだろうと見てみると、どうやらaudio-technicaATH-ANC7という製品のノイズキャンセル効果、音質の評価と価格とのバランスが高く良さそうです。その後他のところで調べてみても概ね似たような評価で、それならば、と買ってみることにしました。

audio-technica QuietPointノイズキャンセリングヘッドホンATH-ANC7
メーカー:オーディオテクニカ
オーディオテクニカ (2007/02/23)
ISBN/ASIN:B000MWW6NA

ノイズキャンセル性能だけを見ればソニーから騒音低減率99%という凄いものが出ていますが、これは5万円近くもする高価なものなのでとても私の手が届くようなものではありません。月に何度も海外との往復フライトをこなしているような人には十分その価格に見合う価値のあるものでしょうが、私にはそこまでのものは不要です。

また、何といってもヘッドフォンというオーディオ機器なのですから、音質が良くないことには使う気にもなれません。特にヘッドフォンというのは音質の良し悪しというものを感じやすいのではないかと思いますので、この点ではなるべく妥協したくないものですが、ATH-ANC7の場合特に高く評価されているのが音質についてのようです。これまで私が自宅で使用してきたのもaudio-technicaの製品ですが、さすがにこの価格帯で手を抜くことはないのではないかと期待しました。

ということで、モノが届いたのは寝込んでいる間だったのですが、ようやく音楽を聴く気になる程度に回復してきたところで昨日の出勤時に試してみることにしました。その効果については「周りの音が聞こえないので外を歩くには危険を感じる」などという表現も見られますが、さすがにそこまでのことはないでしょうし、車の音が聞こえたら脇へ避けなければならないというようなところも通らないので問題ないはずと踏みました。でもさすがに自転車に乗るのは危険なので徒歩です。

家を出てからノイズキャンセラのスイッチを入れてみると環境音がスッと小さくなり、突然静寂に包まれたような感じになりました。実際には完全に無音になるわけではないのですが、ランダムなノイズに対しては期待した以上の効果です。それから音楽をスタートしてみると、評判通りクリアで自然な音質で、ノイズが聞こえないのであまり音量を上げる必要がないということもあって聴き疲れしにくいように感じました。もちろんノイズキャンセラが働いていることによる不自然さなども一切感じられず、飛行機の中で静かにクラシックでも聴きながら眠りに就くということもできそうです。

その後、今回私が試してみたかったポイント、普段歩くときには通らないのですが、比較的交通量が多く、頭上では換気ファンが轟音を上げているというトンネルの中を歩いてみました。通勤時にいつも使っているSennheiser PMX100はオープンエア型ということもあって、このトンネル内を歩くときは音量を数レベル上げないと聞こえないようなところなのですが、ATH-ANC7ではそのままの音量で難なく聴くことができます。さすがに騒音が全く聞こえないというほどではないのですが、音楽が鳴っている間にはその音でマスキングされてしまう程度に小さく抑えられており、十分な性能と言えるのではないでしょうか。

入力プラグを接続しなければノイズキャンセル機能だけを利用することができるようにもなっているのですが、基本的に無音になるわけではないので、意識してしまうと余計にノイズが気になってしまったりするのでなかなか難しいものです。静かな図書館の中だと他人の咳払いやページをめくる音さえも気になってしまうというのと同じようなことでしょうか。その状態に慣れてしまえば快適に過ごせるようになるのかもしれませんが、ごく小さな音量ででもBGMを流してマスキングしてやるとより効果的なのではないでしょうか。

このアクティブノイズキャンセラの仕組みというのは、私も学校で「音は波である」と学んだときに友人らと「それなら逆位相の波を重ねたら無音になるんじゃない?」と話していたのをまさにそのまま実現したものなのですが、その時はまさかそんなと思ったことが実現されてしまうとは、テクノロジーの進歩というのは恐ろしいものです。昔は無理だと思ったあんなことやこんなことも今ならできるのでしょうか…ってみんな忘れちゃ意味がないんですけどね。