Total Recall記憶こそが過去の現実。

過去にヒットした映画作品の設定や脚本に多少手を加え、最新の技術で製作し直すリメイクという手法は過去に何度となく行われていますが、元の作品がヒットしたからといって新しいものもヒットするかというともちろんそう簡単なものではありません。Wikipediaには「リメイク映画」というカテゴリーが作られていて、日本語版にあるだけでも318もの作品が登録されています。中には日本やその他の国のローカルな作品がハリウッドでリメイクされたりするケースもありますが、映画の基本設定や脚本というものがどれだけ重要で価値の高いものであるかを示していると言えるでしょう。

今回観た「トータル・リコール」も1990年にArnold Schwarzenegger主演でヒットした同名の作品をリメイクしたものです。もともと、この下の作品自体がPhilip K. Dickの「追憶売ります」という短編作品を原作とするもので、Dick独特の雰囲気を持った作品で好きだったため、このリメイク版も観てみることにしたのでした。

舞台となっているのは全面化学戦争後の地球で、その戦争で使用された兵器の影響で人類が居住できるところはイギリス付近とオーストラリアだけになっており、裕福なThe United Federation of Britain (UFB)とそれに搾取されるThe Colonyという構図になってしまっています。The Colonyの住民はThe Fallと呼ばれる地核近辺を通り抜ける落下型巨大エレベーターに乗ってUFBの工場などに通勤しているという形です。このThe Colonyの劣悪な住環境の描写はなんとなく同じDick原作の「ブレードランナー」のそれを彷彿とさせるものがありましたが、このあたりの設定は前作とは大きく異なっているところです。
Lori
Colin Farrell演じる主人公のDouglas Quaidもそうしたしがない作業員の一人だったのですが、退屈な毎日の鬱憤を何とかしようとある日、人の記憶に偽のいい思い出を植えつけて旅行や冒険をした気にさせるRekall社を訪れてみたところ…という形でストーリーが大きく動き始めることになります。Rekall社などキモとなる設定は前作と同じなのですが、今回はThe Fallの存在感が結構大きいような気がします。他にも未来世界だけあってサイボーグ警官や手の平に埋め込まれた携帯電話、3次元エレベーターなどが登場して、SFファン向けの小道具にも抜かりはありません。

抜かりがないといえば本作は充実のダブルヒロインです。味方にはJessica Biel、敵役にはKate Beckinsaleという綺麗どころが配役されており、華を添えるどころか特にKateの存在感は主役も食っているのではないかとも思えますが、そう思うのは単に私がファンだからというだけかもしれません。

ということで映画の内容にはあえてあまり触れないでおきますが、この操作された記憶というのはなかなか複雑なテーマですよね。前作では作品の内容全体がRekallによって埋め込まれる偽の記憶だったという設定のようなのですが、今作ではそのようなほのめかしはなく、純粋に信じていいのか、それともやっぱり偽なのか、葛藤のようなものがあります。作品を観ている間にも、これは現実なのか、それとも偽なのかと考えながらになってしまうので、落ち着いていられませんでした。しかし実際、ある人にとっては記憶にないことはなかったことと同じで、間違った記憶でも覚えていることこそが事実ですからね…そういう意味でも深いです。