日本語をラテン文字で表現するためのローマ字の表記について、訓令式と呼ばれるものとヘボン式と呼ばれるものとが混在していて、これを統一する動きがあるということについては私も以前記事にしましたが、これがいよいよ現実味を帯びてきたようです。
再び読売新聞が「「し」は「shi」で「ふ」は「fu」、ローマ字表記がヘボン式に…70年ぶり文化庁が変更へ」という記事で伝えていますが、ここで文化庁が答申素案をまとめたとされているものは6月20日に行われた文化審議会国語分科会ローマ字小委員会(第10回)で配布資料とされている「改定ローマ字のつづり方(素案)」のことと思われますが、要点をまとめると以下のようになります(ChatGPTによるまとめ)。
- 基本はヘボン式を採用
→ 実用上もっとも広く使われている方式であることから、表記の統一に適している。 - 撥音「ん」はすべて “n” で統一
→ 「しんぶん」→ shinbun
→ “m”(shimbun など)は使用しない。視認性と一貫性を重視。 - 促音「っ」は後続の子音を重ねる
→ 「きって」→ kitte
→ 「がっこう」→ gakkou(または gakkō) - 長音はマクロンまたは母音重ねで表記可
→ 「おばあさん」→ obāsan または obaasan
→ 「東京」→ Tōkyō または Toukyou
→ 入力や表示環境によって使い分けを認める(マクロンを強制しない) - 拗音(きゃ・しゅ など)はヘボン式どおり
→ 「しゃ」→ sha, 「ちゅう」→ chū など - 慣用表記(例:Tokyo, sushi, judoなど)はそのままでOK
→ 国際的に定着している表記は修正不要。急な変更は求めない。 - 外来語・特殊音節(ディ、ドゥなど)は柔軟に対応
→ di, du, ti, fa, wi などの表記は参考事例として示すにとどめ、強制ルール化はしない。 - 句読法や文章全体のローマ字表記は対象外
→ この素案は単語・語句レベルのつづり方が中心。文法や文全体のルールは別途検討。
何はともあれヘボン式になるということでそれはいいのですが、撥音がすべて”n”とか、長音はマクロンか母音重ねとか、ちょっと気になるところはあります。日常目にするローマ字表記ではマクロンが使われることは少数派のような気がしますが、使い分けを認めるということなのであまり気にする必要はないのかもしれません。しかし、他のいくつかの言語でもマクロンで長音を表す場合があるということなので、普通のキーボードでは入力が面倒かもしれませんが、これには一定の合理性があるようにも思えてきました。
なお、ローマ字というのはあくまで日本語の表記法の一つであるということには注意してほしいと思っています。ローマ字で書けば外国人も読める・発音できると思ったら大間違いです。そもそも「ラ行」の音などは英語話者にはどう頑張っても正確には発音できないのですが、その他の場合でもローマ字を英語読みしたらかなり発音が変わることが多いはずです。ですから、例えば「シ」は”Si”と書くよりも”Shi”と書いたほうが英語の発音に近いからいい、というのはほとんど意味がなく、例えば”Shi”だけをアメリカ人に読ませたら「シャイ」みたいな発音をするはずで、むしろ”Si”の方が母音が近くなって「シ」に近い読みになったりするはずです。要は、繰り返しになりますが「ローマ字は日本語の表記法の一つにすぎない」ということで、今回の素案のローマ字では”Shi”を「シ」と読むというルールになるということです。