引き際が肝心…しかし既に遅すぎる気が。
新聞各紙の1面トップを飾っていたり、数多くのブログ記事で触れられていたりしますので既に多くの方がご存じのことでしょうが、「次世代DVD」の一つであるHD DVDを先頭に立って推進してきた東芝が撤退を検討しているという内容が昨夜報じられました。これに対し、当の東芝からは
現在市場の反応を見ながら今後の事業方針について検討はしているが、報道のような決定をした事実は無い
声明が出されたそうですが、「決定をした事実は無い」というのは「決まってはいないがその方向で検討中」という事実上の肯定の意味で使われることが多く、ウソをつかずに済むギリギリのコメントというところではないでしょうか。
それまでHD DVDとBlu-ray Discとの両方のサポートを行ってきたWarner Bros.が今年1月のCESにあわせてBlu-rayへの一本化を発表して以来急激に旗色が悪くなり、HD DVDをサポートしてきた他のスタジオも見切りを付けるのではないかという憶測が飛び交い、今月に入ってからは小売り大手のBest-BuyやWal-Martなども支持を打ち出すなど敗色濃厚というのは誰の目にも明らかでした。そんな中でも東芝は低価格プレイヤーの新機種を発表したりもして、まだまだやる気を見せていたのですが、ここへ来てこういう内容の報道があったというのは撤退したい内部関係者からのリークがあったと見るべきなのでしょうか。
3年前には私も「Blu-ray DiscとHD DVDの両規格が統一か」という記事を書いている通り、規格統一のチャンスがあったようなのですが、その後「次世代DVD規格分裂」という記事の通り残念な結果になっています。もしもこの時双方が妥協できていたら、今回のような不幸な結果を招くこともなく、またこうして「次世代」と呼ばれたまま何年も普及しないというようなこともなかったのではないかと思われるのですが、大人の事情があって物別れに終わってしまったのでしょうから仕方ありません。
それにしてもいわゆる「次世代DVD」が普及しないのにはいくつもの訳がありますよね。
- 規格が分立してしまっていてどちらを買えばよいのかわからない
- 機器が高い
- ソフト/メディアが高い
- 高画質は必要ない
ちょっと考えただけでもこれだけの理由が思いついてしまうのですが、これらはほとんど私自身にも当てはまります。液晶やプラズマなどHDテレビをお持ちの方はもうDVDの画質では見るに堪えないと思われるようですが、私は普段ほとんどテレビは見ないので今のテレビが壊れるかアナログ地上波が停波されるまでは買い換えないだろうと思われますし、映画DVDもほとんどPCで見ていますので今のところ「ハイデフが欲しい」というほどには盛り上がっていません。まあ、新しい物好きの血は騒がないこともないのですが、優先順位は低いですね。
これに加えてHD DVDの方は
- 名前が悪い
- 容量が中途半端
というのが購買意欲を削いでいるような気がします。アルファベット5文字というのが日本人には非常に呼びにくいですし、いかにも「DVDの後継はこちら」という名前が逆に変わり映えのなさとなってしまっているのが大失敗ではないでしょうか。また、従来のDVDとの製造上の互換性を重視してしまったためにBlu-rayの1層25GBに対して1層15GB、さらに8層200GBまで試作に成功しているBlu-rayに対して2層30GBまでというのはいかにも見劣りがします。製造ラインのコストなんていうのは普及するまでの過渡的なものでしかないというのに、そこに拘ってしまったというのは普及に焦ったということなのでしょうか。結局Blu-rayの製造コストも技術の進歩でどんどん下がってきて今や大差が無くなっているということですから、ますます何だったのだろうというようなものです。
ということで、東芝はここで撤退することで数百億円という巨額の損失を計上することになるだろうということですが、この数字に含まれないダメージもかなり大きいでしょうね。ハリウッドを巻き込んでの争いというのは所詮東芝には難しかったということなのでしょうか。一方のソニーにとっては「ベータの雪辱」などとも言われていますが、家庭用ビデオという全く新しいジャンルでの規格争いであったVHS対ベータマックスとは違い、今回はDVDの後継という単なる規格変更でしかないので消費者はちょっと距離を置いてしまっていたのではないでしょうか。まあ今回の泥沼を教訓として、次はCDやDVDの時のようにすっきりと一本化してもらえるといいですね。