ある意味ディズニーにしか作れない
Walt DisneyといえばディズニーランドやABCやESPN、旧infoseekを擁するメディア企業としての顔を思い浮かべる人もいるかと思いますが、やはり本業は映画の製作です。私も子供の頃からディズニーのアニメ映画を観て育ち、最近も「パイレーツ・オブ・カリビアン」などディズニー製作の映画を楽しんでいます。ディズニー映画のいずれにも共通するのは「安心して観られる」ということで、過剰な暴力シーンや残虐なシーンは一切無く、これらが他社に比べて厳しく制限されているのがよくわかります。
ただ、そればかりがディズニー映画の特長ではありません。やはりファンタジーの世界を描かせたら一級品なのがディズニーで、ミッキーマウスから始まるディズニーの伝統的な、お家芸のようなものでしょう。そんなディズニーから、これまでアニメの世界にしかいなかったお姫様が現実のニューヨークにやってきてしまったら…という予告を見たときから楽しそうだった「魔法にかけられて」を観ました。
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント (2008/07/18)
ISBN/ASIN:B0019BE320
原題は”Enchanted“というのですが、この「魔法にかけられて」という邦題はなかなか秀逸ではないでしょうか。練りに練られて決まったものとうかがわれますが、原題の直訳では「魅せられて」(by ジュディ・オング)のようなところでしょうからさすがと言うべきでしょうか。まあ、魔法をかけることをenchantともいうので、実はディズニーらしく訳しただけとも言えるのかもしれませんが。
それはさておき、この物語は魔法の世界で結婚を目前にしたGiselleが魔女の手により魔法の井戸に突き落とされ、着いた先が現実世界のマンハッタンのマンホール、そこから城へ戻ろうとさまよっているうちにRobertとMorganの父子に出会い、Robertは送り返そうとあれこれしているうちに…といったような話です。基本的には、もしも現実世界にファンタジーのお姫様がやってきたら…というコメディですね。
主人公のGiselle役はあえてあまり有名ではない女優を選びたかったという監督の意向で、メジャー作品の経験はあまりなかったAmy Adamsが抜擢されていますが、この人は本当に白雪姫かシンデレラかというようなぴったりの雰囲気を持っているのではないでしょうか。天然ボケのようにも見える役柄ですが、とても素敵です。
この映画の見どころの一つは冒頭のアニメの部分で、ここでは今はデジタルに駆逐されてほとんど廃れてしまっているセル画を使った伝統的な手法が使われてて、懐かしい昔ながらのディズニーアニメを観ることができます。実はディズににはせるアニメの部門がもう残っておらず、これは外注で製作されたというのはちょっと悲しくも感じられますが、一方でそういう外注先がちゃんと残っているというのはホッとするようなところでもあります。
もう一つの見どころはちょっと地味ですが、Giselleが動物たちの手を借りて部屋の掃除をするシーンです。このシーンでは街中の鳩やネズミ、そしてゴキブリといった普段歓迎されざる住人達が手伝ってくれるわけですが、本当に彼らが掃除や片付けをやってくれているかのようなリアルなシーンになっています。鳩やネズミは一部が本物であとはCGだということですが、さすがにゴキブリは全てCGだそうです。
また私が好きなのは魔法の世界ではおしゃべりだったものの現実世界では話すことができなくなったリスのPipで、喋れないので身振り手振りで一生懸命伝えようとするものの鈍いEdward王子に全く伝わらない、というシーンは非常に可愛らしいところです。もちろんこれは完全なCGでしょうが、技術は着実に進歩しています。
ということで、子供向けとも思われる作品で、夜中に真っ暗な部屋の中でオッサンが一人で観ている姿は不気味だったかもしれませんが、なかなか面白かったです。まあ少なくとも子供や女性には楽しんで観ることができるのは間違いないと思います。随所に散りばめられているディズニーのセルフコメディを理解できるかどうかでも面白さは変わってくるでしょうから、ディズニーファンほどお勧めですね。