やっぱり日本人に生まれて良かった…?
日本では数年前に治療費の自己負担割合がサラリーマンでも3割に上がってしまい、かつては1割で良かったことを思うと治療費が3倍にもなってしまったわけでおちおち医者にも行けなくなってしまいました。とはいってもやはりサラリーマンも身体が資本ですから、具合が悪ければ治療してもらわないわけにもいきません。
しかし、3割で済んでいるからまだ何とかなるわけで、もしも健康保険がなかったら大変な負担で、予防的な治療などもってのほか、我慢しすぎて手遅れになる人が続出することは間違いありません。今の日本にいればそんなことは笑い話にもなりませんが、現実に健康保険というものが存在しない国も珍しくはないでしょう。しかも、あのアメリカにも無いのです。あのMichael Mooreがそんなアメリカの医療保険問題をテーマにした作品「シッコ」を観てみました。
この作品はアメリカではドキュメンタリー史上第2位、同時期に上映されていた「ダイ・ハード4.0」を凌ぐ動員の話題作となったようですが、日本ではほとんど取り上げられることもなくいつの間にか公開が終わってしまいました。しかしテーマがテーマだけにそれも仕方のないことで、日本人にとってみれば全く対岸の火事です。私も観終わってみても「アメリカというのはおかしな国だなあ」というような感想になってしまいます。しかしまた同時に、イギリスやフランス、カナダやキューバといった国々では医療が無料となっているということを知ると、これらの国が本当に素晴らしい国に思えてしまいます。
アメリカでは国民皆保険制度が敷かれていない代わりに、皆それぞれ民間の医療保険に契約することになるようなのですが、ここで既往症などによっては契約すらできなかったり、支払いの段になって難癖を付けられて拒否されたり、色々大変なことになっているようです。まあ、酷い事例ばかりを集めているのでとんでもないことになっているように見えますが、実際にはこれらは極端な例でほとんどの人はそんな目には遭っていないのでしょうが、僅かでもこういう人達がいるということは事実ではあるのでしょう。
しかしまた一方で、すべての医療が完全に無料であったり、薬が非常に安価であったり、十分な有給休暇を取ることができたりと相互扶助の精神が根付いた国々もあり、アメリカというのがとても野蛮な、非文化的な国に思えてきます。日本はどうかというと、最初に触れたように自己負担割合が徐々に上がってきて、また医師の不足なども深刻化してきてあまり褒められた状態ではなくなりつつありますが、アメリカと比べればかなり暮らしやすいのではないでしょうか。
この一面だけを捉えてアメリカが劣っているように他国の人間が考えるのもどうかと思いますが、この作品で述べられていることがすべて真実であるならば、アメリカの医療保険制度の問題はかなり根深いものであり、今後解決される見込みは相当薄のではないかと思われます。かつてHilary Clintonがファーストレディだった頃に医療保険改革問題特別専門委員会の委員長に就いて国民皆保険を目指したもののあっという間に潰されてしまったわけですが、相当強い圧力であったのでしょう。本当にこのような国が世界を牛耳っていて大丈夫なのでしょうか。
まあなんだかんだいっても日本人の私も最後まで飽きずに観てしまいましたので、Michael Mooreのドキュメンタリー映画を見せる才能にはさすがと言わざるを得ません。これまでに観た作品はいずれも民主党に寄った政治色の濃いもので、アメリカ国民も半数程度は支持できない内容であったのではないかと思いますが、今回は医療保険に関わる人々以外は諸手を挙げて賛成できるのではないでしょうか。実はそうでもなくて「国民皆保険は共産主義に繋がる」と本当に考えている人も多いのだとすればそれは救いようのないほど根深いものになってしまいますが…