Jonathan Iveアップルファンならいいでしょうが。

今でこそ携帯電話はiPhone、パソコンはMac miniMacBook ProiPadも持っている、とアップル製品に囲まれている私ですが、あまりアップルファンという自覚もないままいつの間にかこうなってしまいました。同じ会社の製品で揃えておいた方が何かと便利だから、というのは囲い込み商法の目指すところでしょうが、特にそういうわけでもありません。それではいったいなぜアップル製品を選択するのか。まず、安いからではありません。性能・機能から考えれば特に割高だとは思いませんが、もっと安い他社製品はいくらでもあります。また、高性能だからというのでもありません。例えばiPhoneよりもSony XperiaSamsung Galaxyなどの方が性能的に勝る部分は多いでしょう。

では、なぜか。それは「使っていて気持ちが良いから」ということではないかと思います。製品の意匠は特にかっこいいというようなものではありませんが、シンプルで飽きの来ず、邪魔にならないものです。また、ユーザインタフェースについても使っていて引っかかるような動作がなかったり、無駄な操作を省くことが考えられていたりして、スペックに現れない官能的な部分に力が注がれているように感じます。もちろん、OSをアップデートしていくとハードウェアの性能が追いつかなくなって最終的には使いものにならないほど重くなってしまったりもしますが、少なくとも発売時点で性能に不満を感じるようなことはないのではないでしょうか。

そんなアップルのこだわりの部分は故Steve Jobsによるところが大きかったと言われていますが、ことデザインに関してはそのSteveの右腕であったJonathan “Jony” Iveの業績として知られています。しかしながら、秘密主義のアップルの、さらに極秘中の極秘であるデザイン部門については非常に情報が限られていて知られていることは多くありませんが、このJonyについて著された「ジョナサン・アイブ – 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」という本が発行されたので読んでみることにしました。

ジョナサン・アイブ

ところがこの本、Jonyの伝記としては肩透かしというか、はっきり言うと期待はずれでした。Jonyがアップルに入社するまでのところはいいですが、それ以降はJonyを中心に描いてはいてもアップル製品の歴史を書いているだけで、また多くがすでに知られていることではないかと思います。Jonyが各製品にどのように関わってきているのかということはあまり知られていないことですが、それもあまりしっかりと記されていません。そして残念なのは、アップルの歴史の中で、Jonyがどのような状況で何に心を砕いてきたのかというようなことがほとんど描かれていないことです。

結局のところ、著者もあまり詳しい情報を得ることができなかったということなのかもしれません。外部に漏れてくる情報をつなぎあわせてストーリーを作ったというところなのでしょうか。著者はCult of Macというアップル関連情報ブログを主宰するLeander Kahneyという人ですが、「スティーブ・ジョブズ」のようなちゃんとした伝記作家のちゃんとした伝記のようなものを期待してしまったのがいけなかったのでしょうか。

おそらく読者が最も知りたいところはどうしてJonyが優れたデザインを生み出すことができるのかということではないかと思いますが、そこについてはほとんどわからないままです。Jonyが抜群のセンスを持ったデザイナーであるからだと言われてしまうとそれまでなのですが、それにも何かしらの背景があるはずです。ただ、この本からは一つ一つの製品をデザインしたのはJony本人ではなく、IDgなる産業デザイングループ全体としての成果であり、それを取りまとめているのがJonyなのだということはわかったので、それはひとつの収穫と言えるかもしれません。まあ当たり前のことですけどね。