Time Machine第4の次元。

昨年観た映画の中で私が最も好きだったのは「オール・ユー・ニード・イズ・キル」だったと元日にランキングで書きましたが、この作品が面白かった要素の一つはタイムループというものです。SF作品の中ではひとつの分野となるほどこれまでに様々な作品でタイムループは用いられていて、「恋はデジャ・ブ」もそういった作品の一つということです。

また、もうタイムループはちょっと広い分野であるタイムトラベルに含まれることになります。タイムトラベルというと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンドラえもんタイムマシン、古くはH. G. Wellsの「タイムマシン」のような主体的に時間を移動するものがまず思い浮かぶかと思いますが、意図せず時間を移ってしまうものもそのうちです。今から8年ほども前に観た「デジャヴ」も非常に面白かったと覚えていますし、アニメの「時をかける少女」も良かったです。私はどうもこの手のタイムトラベルものが好きなようなのですが、先日どこかで時間を主題に扱ったSF作品集という「時間SF傑作選 ここがウィネトカなら、きみはジュディ」が紹介されていて、これはきっと楽しめるに違いないと思い、先日のクルーズに持ち込んで船上で読んだのでした。

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

様々な種類の時間SFの傑作が13種類収録されている短篇集ですが、一口に時間SFといっても色々なバリエーションがあるのだということが再認識できます。ループものにしても一日を繰り返すのか一時間を繰り返すのか、主人公だけがそれを認識しているのかどうなのか、といった違いでそれぞれの面白さが出てきます。また、非常に素直に読める話もあれば、あまりに奇想天外な世界で何がどうなっているのか、かなり無理やりな設定のものもあり、おそらく読者一人ひとりにとって好きな作品、そうでない作品があるのではないでしょうか。

私は冒頭Ted Chiangの「商人と錬金術師の門」でアラビアン・ナイトっぽい雰囲気に戸惑いつつも、読み進めてみれば非常に上手く、また心に響くいい話で引き込まれてしまいました。その後いくつかよくわからない話もあってはぐらかされた感じが逆に面白かったりもしますが、David Massonの「旅人の憩い」は説明されていない部分を想像することで世界が広がるような興味深い作品でした。一番わけがわからないのはIan Watsonの「夕方、はやく」で、いったい何がどうなっているのやら、光景を想像するとますます不思議な作品でした。

そして一番良かったのは最後に収録されている表題作、F. M. Busbyの「ここがウィネトカなら、君はジュディ。」です。タイトルも謎めいていてとても良いですが、時間の移動に関する設定についてもユニークで、そして何よりとてもロマンチックです。これは映画にしてもいいものになりそうな気がしますが、そういう話はないのでしょうか。ちなみにウィネトカというのはイリノイ州シカゴの北にある村のようです。

こういった作品が収められているこの短編集ですが、それぞれの作品の前には編者の大森望氏による短い解説が載せられていて、それを読んでから本編に入ることで心の準備ができるような、作品に入るための導入剤のような効果が有るような気がします。その解説の中で関連する作品も紹介されているので、この本を読んだ後はそれを探して読んでみるのも良いのではないでしょうか。