カトリック教徒の多くない日本ではあまり実感が伴わないと思いますが、先月ローマ教皇のフランシスコが亡くなったことは世界的に大きなニュースになりました。ローマ教皇は世界のカトリック教会のトップであると同時にバチカン市国の元首でもあるわけですが、その葬儀に日本からは総理大臣ではなく外務大臣が出席したというのはどうなのかと思いながらニュースを見ていました。石破首相自身はプロテスタントだそうですが、「だから」なのか「なのに」なのかはよく分かりません。
教皇が亡くなったとなると、空位のままにしておくわけにもいかず、間をおかずにコンクラーヴェとして知られる密室での選挙が行われ、新しく選出された教皇がレオ14世を名乗ることとなりました。アメリカ、北米出身としては初の選出ということでDonald Trumpが下記のように「誇らしい」と言ったということですが、Trumpもプロテスタントなので彼にとっては宗教的な敬意よりも自国出身者がバチカンの首長に選ばれたという思いの方が強かったりするのでしょうか。
It is such an honor to realize that he is the first American Pope. What excitement, and what a Great Honor for our Country. I look forward to meeting Pope Leo XIV. It will be a very meaningful moment!
それはさておき、狙ったというわけではないでしょうが、奇しくも絶妙なタイミングでこのコンクラーヴェを描いた映画「教皇選挙」が日本で公開されています。アメリカでは昨年公開されてアカデミー賞で数多くのノミネートを受けていて、現在はすでに配信が開始されていますが、前教皇の逝去を受けて爆発的なヒットになったとのことです。まあそれはそうでしょう。もともと昨年の時点でも非常に面白いという評判だったので私も観たいと思っていたのですが、地元映画館では上映の予定がなく残念に思っていたところ、今週末から急遽上映が始まったので早速観に行ってきました。
実は妻は先に所用で神戸に行った時に観ていて、面白かったと聞いていたのですが、想像の範囲を超えるほどではないとも言っていました。私が観ても確かにストーリーは予想もしないような突飛なことが起こるわけではありませんでしたが、有力候補者とされていた人たちにもそれぞれ何かしらの汚点や欠点があり、完璧な人物などいないというのが一つのメッセージなのかなどと考えさせられもしました。
私自身は熱心なキリスト教徒を両親に持ち、教会と共に育ってきた身なので、カトリックではなくともキリスト教には共通の要素も少なくなく、キリスト教とは縁のない一般の日本人よりもおそらくスムーズに理解できたのではないかと思います。枢機卿らが着ていた衣装もかなり重々しく豪華なものでしたが、私が通っていた教会の司祭らのものの延長線で考えるとああいう感じになるだろうなというものです。ただ、実際にあつらえるにはそれなりの金額が掛かるものでしょうから、100人を超える様々な体格の枢機卿が集まっているとなると、それだけでもなかなかの費用が必要になったのではないでしょうか。
また、もちろんシスティーナ礼拝堂をこの映画の撮影のために貸してもらうということもできず、本作に登場する礼拝堂のシーンは全てセットで撮影されています。ミケランジェロによる美しいフレスコ画なども再現されており、これにも相当お金がかかっているのではないでしょうか。まあ基本的に背景になるだけなのでそれほど精密に描く必要はないのかもしれませんが、手を抜くとバレてしまって作品全体が陳腐なものになってしまいそうなので、案外重要なものなのではないかと思います。
主役の主席枢機卿Thomas Lawrenceを演じていたRalph Fiennesをはじめ、出演者のほとんどが老人男性という華やかさに欠ける作品ではありましたが、その分どっしりとした重厚感がある、大人向けの落ち着いた作品となっているのではないでしょうか。また、知られざるコンクラーヴェの内側を映像で知る貴重な機会ともいえ、本物の枢機卿らのうち少なくとも何人かは実際に先日のコンクラーヴェの前にこの映画を観て予習したという話もあり、日本から出席した枢機卿らによって「選挙の流れは参考になった」とも「いろいろと実際とは異なるところがありますが、よくできた映像だと思います。」とも言われているのは興味深いところです。
ということでなんともタイムリーな時期に公開されている作品ですが、娯楽作品としてよくできているので、キリスト教に関心のある人はもちろん、ない人にも観る価値のある作品ではないかと思います。

