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金沢21世紀美術館

おじさんが一人でアートを楽しんだっていいじゃない。

今回のひとり旅で、金沢で一番行ってみたかったのが金沢21世紀美術館でした。なぜか私は勝手にもっと郊外の静かなところにあるのだと思いこんでいましたが、実際には兼六園の本当にすぐ隣、金沢駅から歩くにはちょっと遠いでしょうが、市内中心部の便利なところにあります。

この美術館は市民に親しまれているように感じられるのがとても良いと思ったのですが、その理由はその立地だけではなく、敷地に塀や柵がないということもあるのではないでしょうか。公園のように誰でも立ち入ることができ、建物の周りにあるいくつかの作品は体感しながら楽しめ、さらに展覧会もわずか360円から観ることができるのです。この360円の方では「コレクション展 見ることの冒険」という展示が行われ、沢山の人で賑わっていました。世界的に知られる美術館なので地元の人はそう多くないのかもしれませんが、便利な立地でもあり仕事帰りなどに気軽に芸術に触れることができそうで、とても羨ましい環境です。

しかし、どうやら海外からの観光客も含め大部分の人は360円の方を購入しているらしく、1000円の方で観ることができるもう一つの展示「アイ・チョー・クリスティン 霊性と寓意」の方はかなり閑散としていましたが、逆に静かに落ち着いて楽しむことができてこれはこれで私には良かったです。現代アートはなかなか難解なものが多く、このAy Tjoe Christineの作品もまた難しいものが多かったのですが、そのうちのいくつかはなんとなく理解できたり、どこか不思議な魅力を感じられるものもありました。「私たちが過大評価されているのは、あなたたちが私たちのことを全く理解していないから」 (We Are Getting Highly Overrated Because You’ve Never Known Us) という作品名も、絵を見てもそれがどう表現されているのかはよくわからなくても、なんだかとてもカッコよく聞こえます。

なお、この美術館に常設されている有名な作品にLeandro Erlichの「スイミング・プール」というものがありますが、やはりこれが一番の人気だったように思います。プールの上側はチケットが不要ということもあり、写真を撮る人がたくさんいましたが、プールの下側は一度にあまり多くの人が入れないためちょっとした行列になっていました。下側でもほとんどの人が写真を撮っていましたが、私ももちろんその一人です。上から見ても下から見ても、本物のプールのように見えるというのが面白いのですが、こういう作品はやはりわかりやすくて人気のようです。

ちょっと残念に感じるのは、こういうところに来ると外国人の割合がとても高くなること、外国人が多いことが問題なのではなくて、日本人が少ないことが残念なのです。日本にもこうした美術館があちこちにできて、芸術に触れる機会が身近に与えられるようになってきたのに、それを積極的に楽しもうとするのはごく一部の人だけになっているのではないでしょうか。もちろん、趣味は人それぞれなので見ないことが悪いというのではありませんが、もっと多くの人に楽しさを知ってもらいたいと思うわけです。私も美術館に足を運ぶようになったのは比較的最近のことなので偉そうなことは言えませんが。

鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館

梨だけでここまでやれば。

日本の梨の名産地といえばどこを思い浮かべるでしょうか。生産量で言えばふなっしーの船橋市がある千葉県が全国一位のようで、現在はそれに大きく水を開けられてしまってはいますが、鳥取県は長らく日本一の座にあったせいか梨の産地というイメージが強いように思います。しかし、鳥取県の主力は二十世紀であるため、幸水や豊水といった赤梨に人気が移ってしまった今は押され気味ということのようです。

その鳥取県は私が住む兵庫県の隣りにあり、私の自宅から鳥取県庁までの道のりが100km少々ということで、ちょっとしたドライブで行くことができます。山陰は空いている道路が多いので快適なドライブが楽しめるので私はちょくちょく走りに行っているのですが、夏から秋にかけては道の駅や直売所で売られている梨を買って帰るのも楽しみの一つになっています。規格外のものなどを格安で買うことができたりするのは産地ならではのことでしょう。

地理的にこの鳥取県の中心部にある倉吉市には鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館という、梨というたった一種類の果物をテーマにした博物館があります。しかも館名に「二十世紀梨」という品種まで掲げてしまっており、そこまで二十世紀に依存してしまっていいのか心配になってしまいますが、実際の展示内容はもちろん他品種も含め梨全般に渡ったものになっています。

300円という微妙な金額の入館料を払って館内に入ると大きなホールに出ますが、中心には「二十世紀梨の巨木」が骨格標本のように見事な枝ぶり根の張りを見せて展示されています。そしてこのホールの周りに展示室が並んでいる形になっていて、様々な品種や鳥取県における梨栽培の歴史、梨の栽培方法などが解説されています。また、キッチンギャラリーでは梨の試食を提供しており、私が行った時には全部で5種類の梨の食べ比べができるようになっていました。よく冷えていたせいもあってどれも非常に美味しかったのですが、一番気に入ったのは「新甘泉」という品種でした。

また、「梨と生きる『二十世紀梨』ものがたり劇場」では梨栽培の歴史を10分間の映像とロボットとで教えてくれます。30分に1回の上映となっており、たまたま私がここに行ったのが開演3分前だったので座って観てみることにしましたが、梨農家風の劇場を独り占めして落ち着いて観てしまいました。それほど特別驚くようなことはありませんでしたが、なかなか臨場感はあるのではないでしょうか。

展示を見終わった後は、同じ建物にあるフルーツパーラーで梨を中心とした果物を使った各種のデザートを楽しむことができます。私は梨ソフトクリームを買って外に出て食べてみましたが、二十世紀梨をピューレにして使っているというだけあって、梨らしい爽やかさがとても美味しいソフトクリームでした。梨ソフトクリーム自体は鳥取砂丘など県内のいろいろなところで食べることができますので、ぜひ一度お試しいただきたいと思います。

なお、このなしっこ館の館内にもおみやげコーナーはありますが、ちょっと高級な梨しかないようだったので私はここでは買わず、いつも帰りに立ち寄る物産館みかどという直売所で、新高梨をケースで購入して帰りました。普段食べているものよりも大ぶりの梨なので冷蔵庫で冷やすのにも時間がかかりますが、1個剥いてもらって食べたところ瑞々しく甘く、とても美味しかったです。私が最も好きな果物はマンゴーや桃ですが、日常的に食べられる果物の中では梨が一番かもしれません。

奈義町現代美術館 NagiMOCA

思いがけない感動。

昨日は朝夕に部活の試合が行われる中学校へ次男を送り迎えする必要があったので、その間にどこかへ出かけようと思ったのですが、ある時間までに戻らなければいけないとなるとそれに対して余裕を持って行動する必要があるのであまり遠くへ行かずに楽しいところがあるだろうかといろいろ考えていました。その時、旅行に特化したキュレーションサイトRETRIPの「息をのむほどの美しさ。日本にある“フォトジェニック”な美術館7選」という記事が目に付いたのですが、その中の一つが今回行くことにした奈義町現代美術館 (Nagi-cho Museum of Contemporary Art)です。

奈義町は岡山県の北東部に位置する人口6000人ほどの農林業を主要な産業とする小さな町です。しかしここに、素晴らしい美術館があるというのです。自宅からは一般道でも2時間かからない距離なので、思い立ったが吉日ということでさっそく行ってみることにしたのでした。しかし「フォトジェニックな美術館」というのは美術館としてはどうなのかと少々疑問を抱きながらだったのですが、行ってみるとそれは完全に払拭されました。

建物は磯崎新の設計によるものですが、目立つのは斜めにそそり立つ円筒形の構造物です。前掲のRETRIPの記事はあえてほとんど読まずに行ったのでこれが何なのかは知らないままだったのですが、あとで考えればそれがかえって良かったかもしれません。窓口で丁寧に説明してくれた時に「右側奥の黒い螺旋階段を登ると円筒に入ることができる」と教えてくれたのですが、まさか中がこんな風になっているとは思わず、とても感動してしまいました。

常設展示は3点の小さな美術館なのですが、入り口を入って最初にあるのは磯崎新の妻である宮脇愛子による『大地 ≪うつろひ-a moment of movement≫』です。この作品は半分が屋外、もう半分が屋内となっているので、季節によって感じ方が異なるかもしれません。壁に沿ってベンチが並んでいるので、座ってゆっくり時間の流れを感じると良さそうです。

そして今回最も感動したのがあの円筒の中、螺旋階段を登っていった先にある荒川修作+マドリン・ギンズの『太陽 ≪遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体≫』です。私はこの作品を目の当たりにした時の感動を言葉でも写真でも表現することができません。見たままを言うと、真南を向いて傾斜して設置された天面側が光を取り入れるようになっていて、その反対側は黒、そして側面に沿って左右に龍安寺の石庭、下にはベンチとシーソー、鉄棒があり、上には同じものが1.5倍の大きさになって設置されています。こうして写実的に説明しても感動はさっぱり伝わらないはずですが、それがどう凄いのか、それは実際に足を運んで見てみるしかないでしょう。あくまで私にとってはですが、この作品にはそれだけの価値があると思います。

ちなみにあとで調べて知ったのですが、この作品の作者、荒川修作とMadeline Ginsの二人ですが、私が以前帰省の途中にわざわざ立ち寄って入口まで行ったにも関わらず閉園日で入れなかった養老天命反転地の作者だったのでした。つい先日後輩Mが養老天命反転地に行ったそうで、その話を聞いた翌日だったというのは奇遇というものですが、ぜひもう一度行って体験しなければという思いを強くしました。

そしてもう一つの常設展示は『月 ≪HISASHI-補遺するもの≫』ですが、この作品が私には最も難解でした。部屋の形が三日月型をしているので「月」というのはいいのですが、HISASHIなるものが実に不思議な物体です。作者の説明によると「『補遺』という概念を的確に表わしているもの」なのだそうですが、その「的確」という単語の定義すらあやふやに感じてしまうほど、得体の知れない感じです。一般の人が「現代美術」というものに持っているイメージはまさにこういうものかもしれません。

この作品、というよりこの部屋が面白いのは、意図的なのかどうかわかりませんが音が非常によく響くということです。自分の咳払いや足音、カメラのシャッター音も大きく響き渡るので、もしもたくさんの人が同時にこの部屋にいたら騒がしくて仕方がないかもしれません。なお、この日私は午前中に訪れたのですが、他の見学者は2,3人いたようですが同じ部屋にいることはなく、それぞれの作品を自分ひとりで占有することができてとても良かったです。

ここでは常設展の料金で特別展も見ることができるのですが、この日は特別展として田代卓展をやっていました。田代卓の作品は広告などでも使われているので多くの人が一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。鮮やかな色使いと目の大きな可愛らしいキャラクターで非常にポップなイラストが特徴ですが、見ているだけで楽しくなるような作品が並んでいました。

ということで、めったに美術館になど行かない私ですが、ここは本当に行ってみて良かったです。周りには何もないところなので遠くからはなかなか訪れにくいかと思いますが、直島へ行くついでにでもいかがでしょうか。といっても私はまだ直島へ行ったことがないので、次は是非と思っているところですが。なお、私も念のため確認しましたが、この奈義町現代美術館では写真撮影は基本的に、営利目的などでなければ問題ないようです。ただし通常、特別展の撮影は禁止されているようですが、今回の田代卓展は「田代卓展/奈義町現代美術館」とクレジットを入れることでSNSなどへの投稿も許可する、との柔軟な姿勢でした。