私はベストセラー本というのにはほとんど興味を感じないのでよく知らなかったのですが、今年前半に「国家の品格」なる本がよく売れていたそうですね。タイトルからして私がまず買いそうにないのですが、私の感想も聞いてみたいということで後輩Mが出張の機内ででも読めと貸して(借りてきて)くれたので、行きの機内で読んでみました。

国家の品格
国家の品格

posted with amazlet on 06.07.26
藤原 正彦
新潮社 (2005/11)

新書で200ページに満たない薄い本なので荷物にならずに済んだのはよかったのですが、内容もこれまた薄く2時間足らずで読み終えてしまい、暇潰しにも物足りなく感じるものでした。これは著者が新田次郎の息子であり文章が上手いということもあってスラスラと読めてしまったのかもしれませんが、これまでの講演をまとめて手を加えたものらしく、そのためか同じことの繰り返しが多いのが気になりました。

内容は「古き佳き日本万歳!」に尽きるようなのですが、アメリカ式資本主義を批判しておいてその対案として「武士道」を掲げるというのはかなり違和感を覚えました。また、「国家の品格」というタイトルでありながら「国家」について述べられているわけではなく、「日本人が自分達の伝統を取り戻せば日本が世界をリードすることができる」という、私には妄想としか思えない主張がなされているのみです。

もちろん、今の時代の日本に必要なのは日本らしさであるというのは私も常々感じているところではあるのでその点についてのみは賛同できないこともないのですが、それで「日本が世界を…」というのはちょっと危険な思想なのではないでしょうか。世界の中で、特に欧米における日本の地位がどれほどのものであるか、海外での経験も豊富な著者が知らないとは思えないのですが、今は単なるアメリカの腰巾着に過ぎない国が台頭するようなことがあり得るのでしょうか?

日本にとって、というだけではなく一人一人の個人についても同じことですが、人にとって重要なのは自分らしさ、アイデンティティをしっかり持つということではないでしょうか。平等を履き違えた戦後教育の影響か日本人に最も不足している部分がここだと思うので、それは昔の日本人は持っていたものだとすれば著者が感じているものと近い面はあるのかもしれません。

確かに著者の言う「論理がすべての社会」であるアメリカ的資本主義の合理的社会については私もあまりいいとは思っていないので、アメリカに来る途中で読む本としてどうだったのかという気もしないではないのですが、諸手を挙げて賛成というような内容ではなかったので特に問題はなかったようです。変な色眼鏡ですれ違ったり話をするアメリカ人を見たくはないですからね。

いずれにしても、それぞれの国・地域においての文化というものはそれなりの歴史的な背景があってのものなのですから、それ自体を否定するというのは間違いであると私は思います。また、同じ理由で他国の文化をそのまま自分のところに持ち込もうとするのも間違いであり、経緯を無視して比較することも意味のないことでしょう。そういう意味で、この本で述べられていることにどれだけの意味があるのかと思うと、私はあまりいい評価を下すことができませんでした。日本人には日本人の文化があるはずですが、アメリカ人にはアメリカ人のものがあるはずで、それを否定することはできないというのが私の考え方です。

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